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学長メッセージ

学位記授与式式辞(平成28年度)

学位記授与式式辞(平成28年度)

 平成28年度学位記授与式にあたり、お祝いの言葉を申し述べます。卒業生・修了生の皆さん、おめでとうございます。学校教育の各段階で卒業式がありますが、皆さんの多くにとっては、これが最後の卒業式かと思われます。最後の卒業式には、いよいよこれから社会に出るという、特別な意味があります。これからは社会人として、立派にその本分を尽くしていただきたいと願っています。

 ここで、社会に出る、あるいは社会人として本分を尽くす、ということに関連して申し上げたいことがあります。それは、社会では、好き嫌いとか賛成反対とかにかかわらず、いわゆる「建て前」とまともに向き合わなければならない、ということです。
建て前と対立するものに本音があります。建て前は形式とか習慣とかにこだわり、本音は正直にありのままの自分を表現するものというのが一般の受け止め方のようです。建て前は俗なもの、本音は純粋なものというイメージで捉えられているようです。したがって、ここで、「皆さんはどうか建て前ではなく、本音で生きていってください」と言えば、無理なく受け入れられるだろうと思います。そう言いたい気持ちは私にもあります。しかしながら、いま言おうとしているのは、それとは別のことです。
本音と建て前は必ずしも明確に区別できるものではなく、建て前の立て方のうちに本音が示されているとも言えますが、基本的に、建て前は社会的なものであり、本音は個人的なものです。建て前は、社会的なものであるだけに、時代の変遷のなかで試練を受けています。両者の決定的な違いは、建て前は議論の対象になりうるが、本音は個人的なものであるため議論の対象になりえないということです。皆さんはこれまで主として本音で生きてこられたと言っても過言ではありません。そういう幸福な時期を過ぎて、これからは、建て前はどうあるべきか、ということを常に意識することになります。

 ところで、今日は3月15日です。本学は例年この日に卒業式を行っています。この日は欧米ではIdes of Marchと呼ばれ、歴史的に有名な日とされています。この日に本学が卒業式を行うのは単なる偶然にすぎませんが、この偶然には意味があるように思います。
この日がなぜ有名かといえば、紀元前1世紀のこの日に、古代ローマのジュリアス・シーザーが暗殺されたからです。この間の事情はシェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』に詳しく語られています。
 シーザーは、ブルータスを始めとする暗殺者集団に議事堂内で暗殺されました。当時のローマは共和制のもとにあり、一般民衆が政治の主体でした。ブルータスはシーザーが皇帝の位に就く野心を持っていることを察して、共和制を守るためにシーザー暗殺を決意し、仲間を募ります。実はシーザーとブルータスは深い信頼関係にあり、ブルータスは本音の部分ではシーザーに好意と敬意を抱いていました。しかし彼は共和制を守るという建て前に従ったのです。しかしこの計画に賛同して集まってきた他の人たちは、いずれもシーザーに対して個人的な恨みを抱く人たちでした。ブルータスは、そういう動機でこの計画に加わってはいけないと力説するのですが、どうせ目的は同じだからと理解されず、そのまま計画は実行に移されます。暗殺は成功しましたが、それぞれの思惑に食い違いがあったために力を結集することができず、暗殺者集団は自滅の道を辿ることになります。その後、ブルータスが恐れていたとおり、ローマは共和制を捨てて、一個人が絶対的な権力を有する帝政への道を歩むことになります。

 ブルータスの教訓は今日でも生きています。たとえば、最も社会的存在であるべき政治家が、特に、大きな国の指導的な立場の政治家が、建て前をかなぐり捨てて、議論の対象になりえない本音だけで語るようになれば、その国のみならず、国際社会も混乱に陥ることになります。そうならないことをひたすら願うばかりです。
言うまでもなく、いつでも建て前を取って本音を捨てなければならないということではありません。本音を守るということは自分を守るということであって、自分を社会の犠牲として差し出す必要はありません。しかしながら、社会生活においては、政治家ならずとも、本音を抑えて建て前をとらなければならない局面に立ち会うことがあります。それは自分との戦いに他なりません。その戦いに勝った人こそ、社会の担い手になる資格がある人なのです。皆さんにはその立場が期待されているということを、ここで強く意識していただきたいと思います。

 本日この日に卒業される皆さんが、個人としての自己と社会人としての自己とを二つながらに確立し、個人としての生きがいを探求しながら、同時に社会人としての責任を立派に果たしてくださることを希望します。

 終りに、ご列席のご家族の方々にお祝いと御礼を申し上げて、式辞といたします。

平成29年3月15日

共立女子大学・共立女子短期大学
学長 入江和生

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