Faculty of International Studies
更新日:2025年07月08日
学生の活動
【国際学部】学生広報委員による新任教員(中村長史先生)へのインタビュー
2025年度春、国際学部に新任教員として着任した国際政治学が専門の中村長史先生に、学生広報委員の須田 晴菜さん(国際学部1年)がインタビューを行いましたので、その模様をお届けします。
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Q.先生が専攻されている国際政治学とはどのような学問ですか?
そもそも政治学の役割の一つというのが「利害や価値観の違う人々が何とか一緒に生きていける方法」を考えることにありますが、国際政治学はそれの国際版、つまり「利害や価値観の違う国々が何とか一緒に生きていける方法」を考える学問だと思います。国際政治学は第一次世界大戦後に生まれた学問なのですが、戦争が起こらないようにするにはどうすればよいのかを考えることから始まりました。そこで、国際政治学では、まず戦争が起こる原因を突き止め、その原因を取り除くことで平和に近づこうというアプローチをとります。お医者さんが患者さんの病気の原因に応じて、薬を出したり、手術をしたりするイメージですね。その後、国際政治学は貿易や開発、環境、文化など様々な事柄を扱うようになりましたが、戦争と平和をめぐる問題は現在でも重要な研究対象です。
Q.先生が考える国際政治学の醍醐味は何ですか?
僕が考える国際政治学の醍醐味は、“ディレンマ”があるところだと思います。僕の指導教員だった石田淳先生がよく仰っていたんですが、国際政治には両立しないけど、かといってどちらかをあきらめるのも嫌だという状況がたくさんあるんです。
たとえば日常でも、夜中にアイス食べたいけど、太るのは嫌だな……ってことあるじゃないですか(笑)。国際政治の場合は、それがもっとシビアで、人が生きるか死ぬか、国家の運命がかかっていたりするんです。
ディレンマって、どっちかだけが“正しい”っていう話じゃないことも多くて。どっちも一理あるけど、一方を立てれば、もう一方が立たない。それが現実なんですよ。だから、本当にいいことっていうのはゆっくりとしたスピードでしか進まないし、僕はむしろそうあるべきだと思っていて、若い頃は、「明日には世界が劇的によくなっていてほしい」って思っていたんですけど、今はもうちょっと、じっくりでいいんじゃないかなって。
「よきことはカタツムリの速度で進む」って言葉がまさにそうだなと思っていて、もしかしたら、自分が生きているうちに答えは出ないかもしれないけれど、だからこそ考え続ける意味があると思います。
Q.国際政治学を専攻しようとしたきっかけは?
それは、理由が大きく分けて3つあって。1つ目の理由は、僕の中学・高校時代ですね。中高一貫校に通っていて、高校受験がなかったので、中学の頃からけっこう自由に好きなことをやっていて。その頃って、世界ではいろんな出来事があったんですよ。たとえば2001年のアメリカ同時多発テロとか、2003年のイラク戦争とかね。皆さんの世代だと教科書で習うことが同時代的に起きていたんです。そういう時代に、ちょっと背伸びして本を読んでいて、政治とか国際関係の本を読んで、「ああ、こういう分野があるんだな、面白そう」と思ったのが最初のきっかけですね。それで「大学では政治学を勉強しよう」と思って、そういう学部に入りました。
2つ目の理由は大学時代に模擬国連を行うサークルに参加していたことなんです。模擬国連っていうのは、ひとりひとりが各国の政府代表になって、アメリカ代表とか中国代表とかになりきって交渉する、ロールプレイ形式の活動なんですけど、それがすごく面白くて、授業以外のところでも、ずっと国際政治に触れていました。だから学部時代は、課外活動も含めて、国際政治をかなりがっつりやっていました。そして3つ目の理由はゼミで、学部では政治哲学のゼミに入っていて、政治思想とか哲学的なことを勉強していたんですけれども、その年に輪読したのが国際政治思想の本でした。僕は、わりと抽象的に物事を考えるのが好きで、そういう意味では政治哲学もすごく楽しかったんですよ。
_____そこからどうして国際政治へ?
もともと国際政治に関心が強かったのと、模擬国連を通じてずっと現実の国際問題に向き合っていたこともあって、気づけば関心がそっちにシフトしていたんですよね。だから大学院に進むときには、「ああ、やっぱり国際政治学をもっと深くやりたいな」って思いました。
Q.国際政治の授業って、どんな学生にこそ取ってほしいと思いますか?
うーん、正直言うとね、国際学部に入ったからには全員にとってほしいなあ(笑)。もちろん、自分が何を専門にするかっていうのは、それぞれ違うと思うんですけど、まずは1年生のうちは「国際関係入門」とか、そういう基本的な授業を受けてみてほしいです。興味を持ってくれた人は、2年生以降に発展的な科目もあるので、ぜひ続けてほしいですね。ただもちろん、うちの学部って他にも面白い授業たくさんあるから、たとえば「コミュニケーションに行きたい」とか、「エリアに行きたい」っていうのも全然ありなんです。でも、たとえそっちの道に進んだとしても、国際政治の知識ってきっとどこかで役に立つはずなので、だから、「誰にとってほしいか」で言うなら、全員!です(笑)。
Q現在はどんな研究をされているんですか?
今はいろんなテーマに取り組んでいるんですけど、僕は理論系の研究者なので、地域とか時代を限定することなく、国際政治全体を守備範囲として研究してますね。
中でも一番長くやっているのが、「戦争はなぜ終わらないのか」というテーマです。専門的には「出口戦略」って言ったりするんですけど。
戦争が“どうやって始まるか”じゃなくて、“どうやったら終わるのか”という視点で研究をしています。国際政治の研究って、「戦争はなぜ始まるのか」っていう研究が一番多いんです。すごく大事なテーマだし、昔からたくさんの人が研究してきた。でも、戦争がいったん始まってしまったあと、「じゃあそれをどうやって終わらせるのか」っていう部分は、意外と手薄なんですよね。僕としては、始まる理由と同じくらい終わらせる方法も大事だと思っているので、そこを掘り下げて研究しています。
_____今後、取り組んでみたい研究はありますか?
そうですね。僕は、「なぜ戦争が終わらないのか」っていうテーマで研究してきて、特にアメリカがアフガニスタンやイラクに長期間駐留していたことに注目してきました。アメリカはアフガニスタンには2001年から2021年まで約20年間、イラクにも2003年から2011年まで、約9年近く駐留していました。本来、お金も人命もかかるわけですから、アメリカにとっては早く引いた方が合理的なはず。でも、なぜかズルズルと続けてしまった。そういった「引きたくても引けない戦争」について、これまでは研究してきました。これは今のロシア・ウクライナ戦争とは少し異なるタイプの戦争で、アメリカが相手に圧倒的に優位な立場から介入する戦争——これを“新しいタイプの戦争”としたら、ロシアとウクライナのような「力が拮抗している国同士の正面衝突」は、むしろ“古いタイプの戦争”なんです。
_____教科書に出てくるような戦争って感じですね。
そうですね。正直、僕はもうそういう戦争は起きないと思ってたんですよ。でも実際には、今まさにそうした戦争が起きている。だからこれからは、そうした“古いタイプの戦争”についても、しっかり研究していかないといけないなと思っています。
Q.これからの時代に国際政治学を学ぶ意義はありますか?
当然「ない」とは言えないですよね(笑)。やっぱり似た事例が過去にもあるってことなんだと思います。今起きていることってもちろん新しい部分もあるんだけど、同時に、ロシア・ウクライナ戦争みたいな、いわゆる“古いタイプの戦争”もまた起きているわけですよね。大国が隣の国に軍事侵攻するって、「あれ今って19世紀とか20世紀だっけ?」って思うじゃないですか。でもそれが、今この21世紀にまた現実になっている。
僕自身、自分が生きている間にこんなことが起きるなんて、思っていなかったです。だけど、歴史は繰り返すというか、そういう側面もあるんですよね。だから過去にどんな事例があったかを知っている人のほうが、今起きていることをより深く理解できると思います。
_____過去を知ることが、今を見る力にもつながるんですね。
それは本当にそうで。僕は理論研究が専門なんですけど、理論研究って言っても、いきなり閃いて出てくるというものではなくて、やっぱり具体的な歴史的事例を踏まえて考えていくものなんです。たとえば今のロシア・ウクライナ戦争も、授業で勉強した理論で説明できるかもしれない。「あの理論でこの状況ってこういう風に理解できるんじゃないか」っていう風にね。そういう意味で、国際政治学を学ぶ意義はすごくあると思います。
Q 学生時代を振り返って、先生はどんな学生でしたか?
そうですね。あんま「サボってました」とか言えないからなあ(笑)。好きなことにとことん夢中になるタイプでしたね。だから受験勉強はそれなりに苦労したし、大学でも語学の授業とかは正直苦手で、「試験大変だな~」って思いながらやってました(笑)。
でも興味のある分野にはすごく熱中していて、授業とは関係なく本を読んだり、自分で調べたりするのが好きでしたね。
Q.大学生のうちにやっておいた方がいいことはありますか?
これも実はある種のディレンマがあるんですよ(笑)。というのも、学生ってお金はあんまりないじゃないですか?でも、その代わり時間はあるんですよ。もちろん、課題とかバイトで忙しいとは思うけど、それでも社会人と比べたらずっと自由時間は多い。
逆に社会人になると、時間がなくてお金がある。この“時間とお金のトレードオフ”に、多くの人は社会に出てから気づくんです。「あの頃、もっと自由に使える時間があったんだなあ」って。だからこそ、学生時代には“お金がなくてもできる楽しいこと”を、どんどんやってほしいなと思いますね。何でもいいんです。勉強でもいいし、サークルでも、旅行でも。要するに、「時間がある今だからこそできること」を、自分なりにやっておくといいと思います。
———もし、先生が“1日だけ学生に戻れる”としたら?
それは、全力で“仕事に関係ない本”を読みまくりますね。今ももちろん本は読んでるけど、それはやっぱり研究や論文のためで、楽しいけど、ちょっと義務感もあるから。
だからこそ、純粋に自分の興味だけで小説とかを気の向くままに読みたいですね。お金をかけなくてもできる、でも贅沢な時間の使い方だと思います。
インタビュー:須田 晴菜