国際学部

Faculty of International Studies

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国際学部ニュース詳細

更新日:2022年09月20日

授業紹介

【国際学部】リレーエッセイ2022(8)岡部正義「東洋大学×専修大学×拓殖大学×共立女子大学 合同ゼミ(インカレゼミ)の試み ―2022年『日本・バングラデシュ国交50周年』を見通す共同学習―」

東洋大学×専修大学×拓殖大学×共立女子大学 合同ゼミ(インカレゼミ)の試み

―2022年「日本・バングラデシュ国交50周年」を見通す共同学習―


国際学部 岡部 正義


 コロナ禍が続く中で、様々に学生も教員も暗中模索し、対面授業を基調とした大学生活を構築してきています。特に、2020年度・2021年度入学の学生にとっては、入学したとたんの様々な行動制限によってオンライン授業がしばらく優勢の大学生活で、学生同士の交流は限定されてきました。このことは学内にとどまりません。岡部ゼミでは、有志の他大学の教員の皆さんの好意とコラボレーションする形で、コロナ禍にあっても他大学との合同ゼミ(インカレゼミ)を試みてきました。「今後どういうものがよいだろうか」。教員としてまた構想・企画を考える時期がやってきたわけです。そこで、今回は直近の試みの振り返りも兼ねて、その内容を紹介してみたいと思います。


 本学への私の着任は2020年度で、岡部ゼミはそこから私の着任年とその翌年と2年度ともインカレゼミに参加してきています(そして今後も継続していきたいと思っています)。直近のインカレゼミは、昨年12月11日(土)、東洋大学白山キャンパスにて、東洋大学国際学部 坪田建明ゼミナール(国際経済学・都市経済学)、専修大学経済学部 傅凱儀ゼミナール(アフリカ経済論・経済人類学)、拓殖大学商学部 松田琢磨ゼミナール(海運経済学・物流論)と共立女子大学国際学部 岡部正義ゼミナール(開発経済学・国際協力論)が4ゼミナール合同で実施しました。



テーマ国となったバングラデシュ

 テーマは、2022年が日本・バングラデシュ国交50周年となることに時宜をとらえ、バングラデシュの社会経済問題を共通課題としました。バングラデシュの経済研究にも詳しい東洋大学 坪田建明教授に校舎利用をはじめ、様々な面でご指導ご協力を得て開催できました。バングラデシュとはどのような国でしょうか。地理的には南アジアに位置し、西・北にインド、東にミャンマーと接しており、国土は日本のおよそ4割で、人口は約1億6千万人にもなる人口大国です。イスラームが主に信仰されており、世界史を学んだ読者は、英領インドから独立したパキスタンが東西に分離し、東パキスタンとなってさらに1971年に独立した複雑な歴史を持つ国だと思い出された方もいるのではないでしょうか。


 バングラデシュは、一昔前までは(場合によっては今でも)開発経済学の教科書では、貧困問題の改善や産業開発に兆しが無く、経済は停滞し、国内には大量の農村貧困層やスラムが蝟集し、人口も稠密で、「発展途上国」の最たる例として描かれてきました。しかし、どの国や地域も実態は変化しています。近年では、国際社会の開発援助・支援協力と自国政府の開発政策や投資環境整備が着実に実を結び、かつてのような援助されるだけの国から、ビジネスの地として投資を呼び込む新興国に仲間入りしつつあります。もちろんこの国にとって社会開発課題や貧困削減は引き続き重要ですが、この国で近年目を見張る経済・ビジネスの変化を知ることも重要です。



特別講師の講演とチーム学習を併せて双方向性をめざす 

 インゼミ冒頭では、バングラデシュ大使館よりAriful Haque商業参事官をお招きし、以上のような最近のトレンドも踏まえ、バングラデシュの概況についてご講話をいただきました。参加学生も熱心に耳を傾けていました。本インカレゼミは、当日プログラムとは別に、参加校の学生の主体的な事前学習の成果発表の場としても位置付けられました。具体的には4大学の学生が、経済・投資・教育・ODAといったテーマごとに6つのグループに振り分けられ、複数の大学から集まった各グループメンバーが主体的に事前学習を行いました。その成果は、当日の第1セッション「グループ成果発表」の部でいかんなく発揮されました。(当時)本学部3年次岡部ゼミ(計10名)からは、天倉有里さん(ゼミ長)・加藤咲希さん・土谷絢子さんの3名が有志で発表者として参加し、ほかのゼミ生たちも全員会場で各グループワークの成果を聴講し、参加校の学生との討論に参加しました。


 3名の岡部ゼミの発表学生は、それぞれバングラデシュにおける幼児教育の開発支援とインフラ開発支援に関するテーマを取り扱うグループにメンバーとして所属し、事前に他大学の学生とともにグループ調査を行いました。その一端は、日々のゼミ内でもリハーサルを行い、成果を披露しました。インゼミ当日は、全ての教員と後述のゲストスピーカーがいずれかのグループの発表にコメンテーターとして専従し、筆者も東洋大学・専修大学の学生によって作られた発表場で事前学習成果を聴講しました。いずれも充実したプレゼンテーションとなっており、近年のバングラデシュ経済に関する最新で具体的な実情をつぶさにサーベイした成果に触れることができました。


~発表に参加したゼミ生の声~


天倉有里さん(国際学部3年(当時)、岡部ゼミ・ゼミ長、教育問題を担当):
『「困難があっても挫けず進む重要性」をよく学べたインゼミでした。この1ヶ月間色々な困難がありましたが、その中でも前を見続け他大学メンバーと協働し、結果プレゼンまですることができたという経験は確実に自分の成長につながったと思います。JETROの安藤様から貴重なFBをいただく機会もあり、現地スタートアップの勃興等現場に即した援助を検討する必要性を感じました。』


加藤咲希さん(国際学部3年(当時)、岡部ゼミ、教育問題を担当):
『他大学の学生と交流することは、様々な価値観や考え方を学ぶ良い機会でした。日頃は、共立内での活動が多いため、大学ごとの学風の違いで新たな気づきを得ました。』


土谷絢子さん(国際学部3年(当時)、岡部ゼミ、インフラ問題を担当):
『他大学の学生と一から何かを完成させること自体が初めてのことだったので、最初は不安でした。オンラインでの作業は、なかなか円滑に進まず苦戦しましたが、グループ内でコンスタントに連絡を取り合い本番では満足のいく発表ができたと思います。オンラインで作業する際に必要なことを身をもって体験することができ、有意義な機会でした。』


現地・現場で仕事をする公的機関の実務家の特別講演から最新事情を学ぶ 

 その後、第2セッションでは実務家の講話を聴講する部として、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO/ジェトロ)在バングラデシュ・ダッカ事務所長(当時) 安藤裕二氏および独立行政法人国際協力機構(JICA/ジャイカ)バングラデシュ事務所 村上心氏の2名の実務家より、ジェトロにおけるビジネス・投資促進事業およびJICAの開発援助事業に関する最前線の講話を聴講しました。特にJETRO安藤氏の講演により、国内産業は農業が重要であることや、多くの日系企業がバングラデシュに進出していることが分かり、そのために日本政府も日本国内企業のバングラデシュ進出を支援し、そのための情報提供や調査・政策提言を日本政府やバングラデシュ政府に行なっていることが学べました。

 JICA 村上氏からは、JICAがバングラデシュにとっての開発援助で最主要国の日本の使命を担っていること、そのためにインフラ開発はもちろんのこと貧困削減や社会開発に向けて多くの支援・協力を行ってきたことが学べました。村上氏ご自身は民間企業でのご経験ののちJICAへ入構されたとキャリアについても語られ、民間企業に進んだのちに国際協力業界に進まれた軌跡や国際協力業界の魅力についてもお話しを伺うこともできました。就職活動を控える学生にとって興味深い内容をご提供いただきました。



現地を総合的にみるバランス感覚 

 以上の2部の双方を通じて、学生たちは、バングラデシュ経済がかつての最貧困国として開発課題が山積する低開発国のイメージから、日系企業を始め海外資本を誘致し、インフラ整備が進み、新興国として胎動している近年の同国の経済的なダイナミクスを感じ取ることができました。特別講演の中では、ジェトロ安藤氏がバングラデシュ経済を論じる際に、いみじくも「援助から投資へ」と指摘されました。事程左様に、岡部ゼミナールが取り扱う開発経済学の研究・学習も、「開発途上国」を取り扱う際にしばしばその国を単に援助対象国と単純化し、静態的・受動的にイメージしてしまいがちです。しかし、そのようなイメージを更新し、各国それぞれの発展段階に応じて、経済成長や社会開発が進展し、グローバル経済と多様な接点を持っていることを学び取ることができました。

 それと同時に、両氏は共通して、現在の開発や経済展開の障壁・制約として、整備が発展途上である道路や港湾などの社会インフラの脆弱性を指摘しました。日系企業や海外資本がバングラデシュに進出して経済活動を展開しようとした際、道路やインターネットなどの物流・通信を支えるインフラ(社会関係資本)がぜい弱であるため、それがビジネス展開や社会経済活動を同時に妨げているということです。このようなインフラの整備は、経済学では「公共財」と分類され、私企業にその整備は期待できないため、政府の役割が重視されます。ビジネスと同時に、開発援助や公共政策も依然としてとても重要になることも学べました。



多様性を知る機会に

 バングラデシュを始めとしたアジアやアフリカ、中南米のいわゆる発展途上世界を対象に、これらの地域の諸課題や国際協力に関心のある学生がゼミには集っていますが、授業で用いる教科書類では、しばしばすでに出版されて久しいことも少なくなく、過去の一時点のスナップショット的な国の描き方を取り扱ってしまうことがあります。もちろん貧困問題や低開発問題は依然として大切ですが同時に、発展途上国の中にも経済発展の著しい地域も増えていますし、一国の中でも都市ではショッピングモールやコンドミニアムが乱立し、先進国と変わらない生活様式を送る人びとも台頭し、それを支えるハイテク産業の勃興も顕著なケースもあります。まさに「多様性」が学びの鍵になると思います。このように躍動する発展途上国の現実を現場最前線で活躍される講師から学び取ることができました。

 冒頭にも述べたように、コロナ禍でさまざまな交流が制約されてきたなか、自ゼミ内でのディスカッションや相互刺激の機会を得るだけでなく、本インゼミのように他大学の学生や教員とも交流したり、さらには大使館の専門官や公的機関の実務家の特別講演を聞いたりする機会は、以前にも増して参加学生にとって有益な機会となったと思います。とりわけ、女子大学の学生にとっては、男子学生と教室空間を共有する機会も学生にとって新鮮であったでしょうし、また一つの「多様性」ともなったかもしれません。本インゼミで所属大学を超えて協働する機会を得られたことを学生一人ひとりの今後につなげていってほしいと念じていますし、今後も試みを模索したいと思います。



当日のインゼミ(特別講演の部)の様子 (撮影:傅凱儀・専修大学准教授)