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更新日:2018年10月29日

【国際学部】リレー・エッセイ2018(17)寺地功次「歴史をふりかえる 」



歴史をふりかえる

寺地功次


 現在から歴史をふりかえって、ある出来事から何周年の記念日だと語ることがよくある。2018年という年もいろいろとある。まず国際関係の歴史では第一次世界大戦が終了して100年。私の専門のアメリカ外交史に関して言えば、世界史で誰もが学ぶウィルソンの14箇条からも100年ということになる。日本では明治維新から150年になる。お隣の大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国について言えば、現在の国家体制が成立して70年になる。但し大韓民国の憲法によれば、三・一運動が起こった年から100年の来年2019年が建国100周年となるようである。

 いまから50年前の1968年も激動の年と言われた。チェコスロバキアでは「プラハの春」と呼ばれた政治変革とソ連軍などによる軍事介入が起こった。ベトナム戦争におけるアメリカの軍事介入が激化するなかで、アメリカ世論や政府に大きな打撃を与えたと言われるテト攻勢、そしてミーライ(ソンミ)村虐殺事件もこの年に起こっている。フランスの五月危機。日本でも学生運動やベトナム反戦運動が高まるなかで騒然とした年になっていた。アメリカは大統領選挙の年だったが、4月に公民権運動の指導者であったマーティン・ルーサー・キング・Jr.牧師、6月にロバート・ケネディ大統領候補(故ジョン・F・ケネディ大統領の弟)が暗殺され、反戦運動・学生運動の影響もあり政権与党であった民主党の8月の党大会は大混乱となった。そしてベトナム戦争をさらに激化させたとも言える共和党候補リチャード・ニクソンの大統領選挙での勝利である。

 今年の3月、キング牧師の生まれ故郷であるアメリカ南部のジョージア州アトランタをはじめて訪れる機会があった。暗殺から50年という年に訪れたのは偶然ではあったが、アメリカ研究者として一度は訪れてみたい場所であった。昨年、ワシントンDCでの資料調査の際、2016年に開館したばかりの「国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館(The National Museum of African American History and Culture)」を訪れた。首都ワシントンにようやくアフリカ系アメリカ人の博物館が誕生したことは、長いアメリカの歴史のなかで遅きに失した感はあったが画期的なことだった。この博物館の展示や何よりも多くのアフリカ系アメリカ人の来場者の姿を見て、ぜひともアトランタにも行ってみようと考えた次第である。幸いアトランタにはジミー・カーター大統領図書館もあり、アトランタ訪問は自分の研究においても大学でのアメリカ研究関係の授業への還元という点でも実り多い貴重な機会となった。

 現在、キング牧師が暮らした家や周辺の建物、彼と父親が牧師を務めた教会、墓所そして博物館のある地域は、一体として「マーティン・ルーサー・キング・Jr.国立歴史公園(The Martin Luther King, Jr. National Historical Park)」として運営されている。どこを訪れても、歴史の本ではよく知っていると思っていたアフリカ系アメリカ人の苦難の歴史が、現実には、はるかに想像をこえるものだったことを感じずにはいられなかった。ゼミで学生とアメリカ史の本を読んでも、自分が生まれた年より30年以上も前のアフリカ系アメリカ人に対する差別や公民権運動の歴史を知って「つい最近のアメリカでもこのようなひどい差別があったのか」という感想を聞くことは多い。ゼミで卒論のテーマに選ぶ学生もいる。それだけいまの若い人々にとっても印象深い歴史ということだろう。

  「トランプのアメリカ」に至る戦後のアメリカの歴史、最近の日本や近隣諸国における歴史責任論争や政治家の言動をふりかえっても、50年前、100年前とさかのぼって歴史を思い起こすことの重要性は失われていないと感じる。歴史からどのような教訓を導き出すかは多様である。しかし政治の世界のみならず教育の現場においても歴史を「知る」、歴史から「学ぶ」ことの大切さが軽視されつつあるのは心配である。


The Martin Luther King, Jr. National Historical Park

Dr. & Mrs. King's Tomb and the Reflecting Pool