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更新日:2017年10月20日

【国際学部】リレー・エッセイ(18)西村史子「πと教育学」

πと教育学

西村史子


 π


 「パイ」と呼ばれるこの記号は、日本の学校教育で子どもたちが初めて学ぶギリシャ文字である。紀元前から存在し、21世紀の現在でもギリシャ共和国の人々が話す語で使われている。


 日本の小学校5年生は、円の直径の何倍が円周なのか、の文脈で円周率3.14を学ぶ。中学校1年生になるとそれをπで代用することを学ぶ。πの発音は、英語のアルファベットのpに継承されている。いわゆる円周、周囲、周りを意味するπεριφέρεια (→periphery)の頭文字で、17,18世紀の数学者が用いるようになって定着し、現在に至る。


 π=円周率は、3.14 159 26535 89793 23846 26433 83279 ………… と続き、これ以降の数値についてはコンピュータ技術の発展により20兆以上の桁数は判明していると思うが、その規則性(正規数かどうか)については、まだ不明なはずである。無理数の中でも、ミステリアスな存在である。また、超越数でもあって、有理数を係数とする代数方程式の解/根とはならない。まあ、日本の高校までの数学では、つかみきれない扱いの数学定数ともいえようか。


 そういえば、πは、どこか中に入るための門(ゲート)のような形をしている。神社の鳥居にも見える。だからなのか、古代ギリシャの子どもを意味する語は、παιδ ό ς (→paidos, paedos)。大人の周辺にいる、大人の門前にいる、大人になる前の段階にいるということであろうか。


 教育学という学問を表現するに、いまや英語ではeducation, education scienceを専ら用いるが、18,19世紀ではpedagogyが一般的だった。これもまた古代ギリシャの子どもの教育 παιδεία(→paideia)、幼い子どもを指導した家庭教師παιδαγωγό ς (→paidagogos)に由来する。


 つまるところ、先がどうなるかつかみきれない存在の子どもを導く、指導するのが教育ということで、巷に溢れる理論通りには仕上がらないのが子どもの成長だというのは、元々子どもにπを冠した語が使われた時から運命づけられていたのかもしれない。


 そういったデリケートなπの扱いを、20年前の学習指導要領では、「目的に応じて3を用いて処理」などとして、学校教育現場に混乱をもたらした。これはいくら何でもひどいと、私も思った。円周と円に内接する六角形の周が同じ数値になってしまう。そんないい加減な現象の掴み方を指導してどうする!? 幾何領域に聡く演繹能力の高い子どもなら、教師に不信を抱くだろう。実は、「円周率を3」の計算指導を受けた世代は、今大量に首都圏で小学校教員になっている。今年に告示された次期学習指導要領によれば、2,3年後には学校で、主体的、対話的で深い学びを実現し、論理的思考を育み、プログラミング学習を進めるそうだが、果たして現場の教師はどこまでできるのか? 緻密さに加えて抜きんでた創造性が必要なゲームソフトのプログラミングなど、特殊な才能があればこそ。それを見出す指導者は別に必要だろう。民間の人材に目配りし、それを取り込んで、チーム学校を形成し教育力を強化していくことが学校運営に一層求められるとはいえまいか。教師には、ぜひパイオン(π中間子)の役割を担ってほしい。