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更新日:2017年10月02日

【国際学部】リレー・エッセイ(16)寺尾範野 社会の「リアル」をつかむ~イギリス留学から得たもの~

社会の「リアル」をつかむ~イギリス留学から得たもの~

寺尾範野


 高校時代の留学について書いた昨年度のエッセイに引き続き、このリレー・エッセイでは、大学時代のイギリス留学からわたしが得たことについて記したいと思います。


 わたしは社会科学系の大学に入ったのですが、イギリスに留学する前は、正直なところ社会への関心をそれほどもたない学生でした。読書はヘルマン・ヘッセや辻邦生など、社会よりも「わたし」について書かれたものをもっぱら読んでいましたし、日々の関心も、友人関係や恋愛、アルバイト、就職など、個人的なことがらに留まっていました。


 留学を志した理由も、人間的に成長できるだろうし、英語も上達させたい、くらいの漠然としたものでした。しかしながら、交換留学生として3年生の夏から1年間滞在することになったイギリスのバーミンガムという街が、視野を「わたし」の外にある「社会」へと、たちまち広げてくれることとなりました。


 そのころ小田実の『何でも見てやろう』を読んでいた影響もあり、休日はキャンパスを出てバーミンガムの街を歩き、できるだけ現地の人と会話することを心がけました。安全には十分注意を払いつつ、地図を片手に、週末はまだ行ったことのない地域をひたすら歩き回る、そんな留学生活を送りました。


 こうしたなかで、いくつもの重要な体験をしました。まず、「多文化社会のリアル」に触れることができました。バーミンガムはマンチェスターと並ぶイギリス有数の大都市ですが、人口の半数近くが非白人の多民族都市でもあります。そのため、チャイナタウンやムスリム地区など、場所によっては「英語が聞こえてこない」どころか、「商品の説明に英語が見当たらない」こともあり、「ここは本当にイギリス?」と思わされることもしばしばでした。ある日、たしかペンテコステ派だったと思いますが、黒人の人々が集うキリスト教会へお邪魔しました。情熱あふれるゴスペルや牧師の激しい説教の様子は、わたしが知っていた静謐なキリスト教の集いとは正反対のもので、とても印象的かつ貴重な体験となりました。


 また、とりわけわたしにとって衝撃的だったのは、バーミンガムに厳然と存在していた、「格差と貧困のリアル」でした。街の中心部はとてもおしゃれできらびやかでしたが、ひとたび郊外に足を伸ばすと、明らかに貧困地域だと分かる場所がいくつもありました。そのような地域では、家はどれも狭くて画一的で味気なく、あちこちにスプレーで落書きされており、庭も雑草が生え放題、ガラスが割れていることもしばしばでした。通りにはゴミ袋や空き缶が散乱していましたし、公衆トイレの入口にわたしの身長ほどのゴミが積まれていて中に入れない、という経験もしました。近くの食料雑貨店の店員に話を聞くと、「ごみ収集車もここにはあまり来ず、ねずみがたくさん出て困る」と憤っていました。このほか、薄汚れたみなりの小さな女の子が、自動車工場のお手伝いをさせられているのも目にしました。そして、こうした地域に住んでいたのは、ほとんどがパキスタン系かバングラディシュ系の移民の人々でした。


 こうした貧困地域の現実から、わたしはとても強いショックを受けるとともに、自分がいかに社会の現実を知らずに生きてきたのかを思い知らされました。それまでにも大学の授業で格差や貧困について勉強したことはありましたが、そのときはいまひとつ実感のともなわない、どこか遠い世界の話のように感じていました。バーミンガムで社会のリアルな姿に触れたことで、「あ、授業やゼミで習ったのはこれだったのか!」という、「皮膚感覚の理解」とでも言うべきものを、はじめて得られたように思います。


 留学を経て、イギリスや日本の社会についてもっとよく知りたい、そして可能ならば社会をよりよくしていく道筋を見出したい、という気持ちをいだくようになり、大学院に進学して社会科学の道を志すようになりました。バーミンガムでの体験は、まさにわたしの研究人生の原点となったのです。いま思えば、柔らかい頭をもった若いころだったからこそ、あれだけの大きな刺激を受けたり考えたりできたのだろうな、とも思います。学生のみなさんには、ぜひ大学生のあいだに、新しい環境に身をおくことを恐れず、そこでの人との出会いや、見たこと、感じたことからいろいろ考えて、自分を成長させていってほしいなと思います。


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