国際学部

Faculty of International Studies

ニュース一覧へ戻る

国際学部ニュース詳細

更新日:2019年11月04日

研究紹介

【国際学部】リレー・エッセイ2019(16) 立松美也子「たかがプラごみ、されどプラごみ」

たかがプラごみ、されどプラごみ

立松 美也子

 

毎日生活していると必ず生じるのがゴミです。大学でもゴミ箱がありますが(写真参照)、何種類に分別しているかお気づきでしょうか。「燃えるゴミ」、「燃えないゴミ」、「ビン・缶・ペットボトル」、「ミックスペーパー」と4種類になっています。ご自宅では何種類に分類しているでしょうか。多くの場合、大学よりも資源ゴミがより細かく分かれていることでしょう。たとえば、「ビン」、「缶」、「ペットボトル」はそれぞれ別の箱になり、「古着」や「プラスチック」も別個に出したりするかもしれません。「古紙」も新聞紙、段ボール、雑紙に分類されることが多いと思います。つまり、地方自治体によってゴミの分類はかなり違います。それは自治体ごとにあるゴミ焼却炉の能力に依存するためです。

 

 

近年、大きく取り上げられるようになったのは、プラスチックゴミです。ご自身の日用品をご覧になってください。ありとあらゆる所にプラスチックは使われています。朝食を食べるとき、卵は卵パックに、野菜やパンはプラスチックの袋に入っています。顔を洗おうとすると、マイクロプラスチック[1]であるスクラブの入った洗顔料や歯磨きペーストもあります(大手メーカーは、既にマイクロプラスチックを使わない製品に切り替えています)。身支度を整えます。その折、身につけるモノの大半は化繊でこれもプラスチックの一種です。洗濯するとプラスチック繊維が排水とともに流れ出ます。外出したら、コンビニでペットボトルのお茶を買います。もちろん、プラスチックです。お菓子を買っても未開封であることを明らかにするため、プラスチックフィルムで密閉されています。そのプラスチックの袋を開けると、湿気からお菓子を守るため、個別に透明フィルムで包装されています。流行のタピオカ・ドリンクを買います。お店の人は、プラスチックのコップに太いストローを突き刺してくれます。

 

このように生活の一部を考えても、私たちの生活はプラスチックとともにあります。プラスチックは、軽く、丈夫で成型しやすいという多くの利点があります。しかし、この利点である丈夫さ、つまり、耐久性の高さから自然環境に排出されると長期にわたって残存するという問題が生じます。20世紀に発明されたプラスチックを私たちは、これまで大量に生産し、利用し、廃棄してきました。

 

日本で2017年に製品に使用されたプラスチックは、1012万トンであり[2]、再度プラスチック製品にリサイクルされたのは、20%です。その他、鉄の原材料、ガスなどに利用されたり、焼却されたりした量は計564万トンです。ここまでが有効利用されているとみなされています。一方、埋め立てられた量は128万トンで、それ以外は海へ流出していると考えられています。経済協力開発機構(OECD)は、世界全体での海への流出量は、年間400万トンから1200万トンであろうと報告しています[3]

 

 なぜ、近年プラごみの問題がマスメディアで注目されるようになったのでしょうか。ひとつには、20177月に中国政府が世界貿易機関(WTO)にプラスチックの固形廃棄物の輸入禁止を通告したことが挙げられます。それまで世界のプラごみの最大の輸出先であった中国のリサイクル能力を越えてしまったのです[4]。日本のみならず、世界全体が中国に依存していたプラスチック国際循環システムは滞り、他の東南アジア諸国へと流出しました。

 

プラごみは、中国に依存した国際的なリサイクルの循環があったときから、実際不適切に管理されれば、海に流出し、紫外線や波の力によって5ミリ以下に砕けてマイクロプラスチックとなってきました。国際的なリサイクルが無くなれば、安易に海洋投棄されたりするリスクが増える可能性も増えることとなりましょう。耐久性の高いプラスチックは、簡単には消滅しません。マイクロプラスチックとなり、魚類、海鳥、アザラシに取り込まれ、食物連鎖で人間を含む多くの動物の体内に入るおそれがあるとされています。既に、海鳥の胃の中に多くのプラスチックがため込まれ、食べても栄養を吸収できず、餓死するなどの報告があります。

 

またプラごみ問題は、環境問題にとどまらず、外交問題へと発展しています。今年4月にフィリピンは駐カナダ大使を帰国させました。これはプラごみ問題が原因と考えられます。2013年および14年にカナダの企業は、再利用可能なプラごみであるとしてコンテナをフィリピンに輸送しましたが、大半は再利用できない家庭ごみであることが判明しました。しかし、カナダ企業はごみを引き取りませんでした。そこでフィリピン政府はカナダ政府に移送を求めました[5]。これに対しカナダ政府は、輸出した企業の責任であり、国家としての責任を認めず、対応せずにいました。本年4月にようやくカナダに移送する手続きを取り、カナダが費用負担をするという文書をフィリピンに示しました。しかし、その後もカナダ政府の対応がなされなかったことから、フィリピン政府は、駐カナダ大使を召還させたのです。たかが「ごみ」とはいうなかれ。外交問題にまで拡大するのです。最終的に5月末に港に放置されていたコンテナ69個は、カナダに送り返されました。返送に6年もかかったことになります。ドゥテルテ大統領は、一時期「カナダに宣戦布告する」とまで述べていました[6]。先進国から違法に運び込まれたごみを送り返す動きは、このフィリピンのみならず、マレーシア、インドネシア、カンボジアへと広がっています[7]

 

国際条約はプラごみ問題に対応できないのでしょうか。有害廃棄物の国際的な移動を規制するバーゼル条約は、やはり1980年代に発生した先進国からの廃棄物移動をきっかけとして採択されました。これまで、プラスチックの廃棄については明記されていませんでした。しかし、20195月に同条約の第14回締約国会議が開催され、条約の規制対象を掲げる附属書IIに新たに「プラスチックごみ」を追加する改正案が採択され、20211月に発効する予定です。また、条約の非規制対象リストである附属書IXに「環境に適切な方法でリサイクルすることを目的とした、汚染物や他の種類のごみが混入していないプラスチックごみ」を追加しました。このように規制対象を明確にすることで、有価物としての廃プラスチックとプラスチックごみの輸出を区別するようになったと考えられます。この条約に加入している国は、これに対応する必要が出てきます。

 

バーゼル条約に加入していない国家は、何もしなくてよいのでしょうか。本年6月のG20大阪サミットで「海洋プラスチックごみ対策実施枠組み」について合意しました。これ自体、法的拘束力はありませんが、2050年までに新たな汚染をゼロにすることを目指すことにしました[8]。今後、各国の自主的な行動とその情報共有がなされることになります。

 

このような世界的な動きに対応して、私たちはプラスチックを国内で資源循環させ、プラスチックと賢い付き合い方を考える時期がやってきています。これまでのようにジャブジャブとプラスチックを使う生活は変化せざるを得ません。ひとまず、大学でごみを出すときは、コンビニお弁当の入っていた入れ物や自動販売機で購入したペットボトルの周りのプラスチックフィルムは、「燃えないごみ」箱へ捨てるという地道な努力が必要かと思われます。

 


[1] 米国連邦法では、マイクロプラスチックビーズは、5ミリ以下の固形プラスチック粒子で、角質除去または洗浄の目的で使われるものをいいます。

[2] 「あふれるプラごみ」読売新聞 朝刊 12版 20199225面。しかし、一方で海洋プラスチックごみについては、議論の土台となる排出量の正確なデータがないとも言われています。「海洋プラごみ、乏しいデータ」朝日新聞 朝刊2019627日 27頁。

[3] 科学技術振興機構、「プラごみによる環境汚染、世界で深刻国際的危機感広がり、G20前に政府が行動計画」掲載日201967https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/review/2019/06/20190607_01.html (as of 2019/10/18)

[4] 2016年日本で発生したプラスチックごみの送料は、約899万トンであり、そのうち、約138万トンが中国や香港へ輸出され、リサイクル製品用材として利用された。同上。

[5] カナダ企業が不法ごみ放置 日経新聞夕刊、20195173面。

[6] 「違法ごみ返送広がる」日経新聞20197308面。

[7] 同上

[8] 「「反保護主義」なし G20首脳宣言、2回連続」朝日新聞 朝刊 20196301面。