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更新日:2017年01月31日

【国際学部】LIVE時評「イタリアの国民投票キャンペーンを見て」:八十田 博人先生

イタリアの国民投票キャンペーンを見て

八十田 博人

 昨年12月4日に行われたイタリアの憲法改正国民投票は、賛成40.89%、反対59.11%と反対派の圧勝に終わり、結果を受けて、レンツィ首相が辞任した。私は11月30日にイタリアに着き、賛成派・反対派のキャンペーンを最後の2日間(投票前日の3日は運動禁止)だけ見ることができた。

 12月1日には、反対派のポピュリスト政党「五つ星運動」の集会をジェノヴァで見た。少し前まで政治の素人だった上下両院の議員十数人が数分ずつ順番に話していた。彼らは現在の国内の苦境はすべて既存政治家のせいだとして、「憲法改正で賛成が勝てば国家機構のすべてがレンツィのものになる」「レンツィと民主党を通じてイタリアは国際的な投資銀行に支配されることになる」などと、レンツィなどエリートへの批判を繰り返すばかり。支持者たちは拍手だが、私は聞いていて哀しく虚しい気持ちになった。



 会場を見渡すと、ネット中継用のカメラは前屈みに構えていて、実際には広場の前のほうにしか聴衆はいないのに、大人数に見える角度から撮っていることに気づいた。リアルな集会とネットをつなぎ、政治への国民の直接参加を謳う彼らが、実は自分たちの都合のいいように現実を操作している姿に、「ポスト事実」政治の危険性を感じた。

 翌日は、レンツィ首相が自身の故郷であり、市長も務めたフィレンツェで賛成派の最終集会で登壇すると聞いて、会場のシニョリーア広場に数時間前に入った。広場を埋め尽くした大勢の聴衆に高揚感もあったが、後で読んだ記事によると、左派が圧倒的に強いこの地方の街々の首長たちが支持者を大動員したらしい。



 準備にも余念がなく、広場にそびえたつ現役の市庁舎パラッツォ・ヴェッキオは美しくライトアップされ、聴衆にプラカードや大旗、小旗が運動員から配られ、私にも賛成派の大きな旗が渡された。「自分はイタリア人でなく、日本から来た政治学者だ」と断ったが、「それでも構わない、是非どうぞ」と言われ、仕方なく持っていたら、今度は近くのおじさんに日本からわざわざ来たのかと感心され、君の写真を撮りたいと言われる始末。



 これまで個人的には、レンツィの派手な言動は好きにはなれなかった。しかし、今回初めて生で聞いた演説は情熱的で巧みだった。「ヨーロッパに壁を作ってはいけない、多様性こそがわれわれの文明だ」「この国民投票は政府を強くするのではない、イタリアを強くするのだ」などと、耳に残る言葉が幾つもあった。地元ネタのジョークも交えながら、強く畳み掛けるところでは拍手や歓声が鳴りやまない。41歳でも、さすが一国の首相と思わせた。



 演説中のレンツィを撮った写真の一枚に、彼とひな壇の支持者たちが同じ目線で向かい側のパラッツォ・ヴェッキオを見上げているものがある。すでに終盤には反対派優勢の報道が多かったが、中世以来のこの街の権力の象徴である建物を前に、結果が予想を覆すことを願って、最後の努力をしていたのだろう。その姿に、政治という仕事の過酷さを感じるとともに、彼のように若々しい指導者がイタリアにいることが何かうらやましく思われた。


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