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更新日:2016年11月07日

【国際学部】リレー・エッセイ 「初来日の失敗を糧に」:李錚強先生

 国際学部には、海外での滞在経験を持つ日本人教員と、日本での長い滞在経験を持つ外国人教員が多くいます。そこでそうした教員の留学・海外生活の体験談をリレー・エッセイとして連載することにしました(1~2週間の間隔で掲載の予定です。なお、各エッセイは2014年度に作成・配布された『国際学部プロスペクタス』を一部改変したものです)。

 先頭を飾るのは、中国言語文化を担当する李錚強教授です。


初来日の失敗を糧に

 李 錚強

 私は中国の大学で日本語科に進んだことがきっかけで、日本と一生の縁を結ぶこととなりました。初めて日本の土を踏んだのは一九八四年の春のことです。まだ新米の日本語教員だった私は、日本人とのコミュニケーションに自信満々でした。しかし、初日のレセプションで思わぬ失敗をしてしまいます。宴会場で隣に座った日本人に「お酒をどうぞ」と言って注ごうとした時、相手から返ってきた「ぼくはいいです」という簡単な返事を「この人はお酒が飲みたいのだな」と勘違いして、無理やりお酒を勧め続けてしまったのです。挙げ句の果てにその方との雰囲気も気まずくなり、自分の語学力の低さを痛感することしきりでした。あとで、「いいです」には「要らない」という、教科書には書かれていない意味もあることを初めて知り、おかげで数日後の宴会で割り勘になり、「李さん、お釣りはいいですから」と言われた時には、今度は言葉のニュアンスを正確につかむことができました。


(1984年3月26日 大阪万博記念公園内で)


 また、一か月の滞在中には同じ日本人の方々と何回も顔を合わせましたが、その方々から会う度に「先日はどうもありがとうございました」と決まったように言われ、何か言葉を返さなくてはと、どういうことで感謝されたのかをいちいち思い出そうとして、四苦八苦しました。今ではこのような苦労をしなくても返す言葉がピンとくるようになりましたが、反対にこちらからお世話になった方に対して、「先週はお世話になりました」のような表現がさらっと出てこないもどかしさを今も度々感じることがあります。

 長年日本語と付き合ってきたものの、日本という異国で生活していると日本語に対してコンプレックスを感じることは日常茶飯事です。戸惑ったり納得したりを繰り返しているうちに初訪日から三〇年以上の歳月が経ちましたが、日本語の本音と建前をわきまえる苦労は今日まで続いています。

 こうした経験から、言葉の意味が通じてもコミュニケーションがうまくいくとは限らないということを身に染みて感じています。ですから中国語の教師として、中国語の勉強においても、語彙や文法だけではなく、中国人独特の発想法を身につけることの大切さを強調したいと考えています。中国人ならこういう場合にはこう考え、こう行動するとか、一方で日本人の考え方にはこんな特徴があるとか、そのようなことを、中国語そのものを覚えるのと同時に磨いていくと、語学の学習が無味乾燥なものにならず、楽しみながら取り組めるはずです。外国語の上達には数多くの失敗を経験する必要があります。まさに“吃一堑,长一智(ツウイーチェン、ツァンイーツ)”という中国の格言の通り、「一度みぞに落ちれば、それだけ知恵がつく」ということなのです。


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