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更新日:2018年12月19日

【国際学部】リレー・エッセイ2018(24) 李錚強「中国人に好まれる数字と数字語」

中国人に好まれる数字と数字語

                                李錚強


 日本では冠婚葬祭には「大安」や「仏滅」などの六輝がよく使われています。この「六輝」は古く中国で時刻の吉凶を占っていたもので、後に日本に伝わり、江戸時代後半に一般に広まったとされています。しかし、中国ではいつの間にかこの風習が消えてしまい、現代中国語においてはこの「六輝」のみならず「六曜」という語すら使われていません。


 もちろん、中国でもおめでたいことを執り行なう日は「佳き日」であるべきと考えられており、そのため、現代中国人は結婚式の日取りを決める際、偶数日を好んで選びます。なぜなら、日本人が奇数を好むのとは逆に、中国人は偶数を好むと一般的に考えられているためです。しかも、旧暦においても偶数日であることが理想的です。例えば、2018年8月18日は旧暦7月8日であり、土曜日にも重なったために、今年の最も人気の高い日取りとなり、どこの結婚式場でも早くから予約が一杯になったそうです。


 また、披露宴では偶数の円卓、偶数の料理、偶数の出し物が要求されます。特に、結婚祝いの祝儀は、偶数は割れるため奇数の金額を贈るという日本の習慣とは正反対に、必ず偶数の金額を贈ります。“成双成対chéngshuāng-chéngduì”(対になる)になるからです。この発想から不祝儀に用いる香典は奇数の金額と決まっています。


 偶数の中でもとりわけ“”が好まれます。日本人にも「八」が愛用されているようですが、「末広がり」だから縁起がよいという認識は中国人にはありません。中国人が“”を好む理由は、香港語(=広東語)で“”を発音すると“”に似ているため、「儲かる」「繁盛する」を意味する“发财”を連想させるということで、40年前に行われた改革開放後、縁起のよい数字として広東地域で愛用され始め、その後全国に広がってきました。現在、中国のどこに行っても末端の数字に「8」を付けた車のナンバープレートや電話番号が最も多く見られるのは、広東語に由来する新しい社会現象と言えましょう。


 ちなみに、2008年北京オリンピックの開催時期については、当初、国際オリンピック委員会(IOC)から7月25日の開会を提案されましたが、中国オリンピック委員会は、7月下旬から8月上旬にかけては北京市が最も暑い時期で、競技への影響の恐れがあるという理由で反対しました。交渉を重ねた結果、8月8日午後8時に開会式を行うことになりました。これについては「縁起がよいとされる『8』にこだわって決めたのでは」と考える中国人が多くいました。さすがに北京オリンピック組織委員会での記者会見で「そんなことはない」と否定しましたが、「縁起のいい数字」にこだわった訳ではないという弁解を、私は丸呑みすることはできないと思います。


 偶数の“”は古くからプラスイメージを伴う数字として認識されています。北方の農村部では結納を交わす場合、“四彩礼sìcǎilǐ”という四種類の品を贈る風習が続いています。“”または偶数によってバランスを取り円満を求めるというのが古くからの考え方です。ただし“”は“”と“xiéyīn”(発音が同じまたは似ている)なので、「死」を連想させるため、現代中国においては車のナンバーや電話番号として「4」を忌み嫌う人もいます。この「4」の発音からもたらしたタブーは日本人と中国人の感覚に共通点があるようですが、中国のほうは、日本の一部のホテルまたは病院の部屋のように「4」の番号を跳ばし「3」の後を「5」にするほどこだわらないように思います。


 同音語の点から見れば,“”に対する日本人と中国人の感覚は異なっているようです。“九”は日本人にとっては「苦」と同じ発音のため嫌われる数字ですが、中国人にとっては“”と同音のため、“地久tiāncháng-dìjiǔ”(いつまでも変わらない)という成語が表しているニュアンスを連想させ、特に女性に人気のある数字です。


 中国の旧暦9月9日は唐時代から続いている長寿の祝いをする伝統的な節句である「重陽節」があります。日本の「敬老の日」に当たりますが、法定休日ではありません。その由来は9が一桁の数のうちの最大の奇数であり、陽の数とされ、陽の重なりを吉祥とする考えから「重陽」と呼んだと伝えられています。


 日本では,長寿を祝うことばと言うと、77歳は「喜寿」、80歳は「傘寿」、88歳は「米寿」、90歳は「卒寿」、108歳は「茶寿」としてそれぞれ祝宴を張る風習が昔から続いていますが、いずれの語も漢字を分解するとこれらの数のようになるところからきています。このような漢字文化は中国伝来の風習にもとづくかと思われがちですが、北京大学図書館に所蔵された近代から20世紀までの中国語の辞書をあたったところ、いずれも見つかりませんでした。


 ただし、2012年に改訂された《現代漢語詞第6版》(商務印書館)から“米寿”(mǐshòu)と“茶寿”(cháshòu)が収録されることとなりました。“米寿”は直接日本語から摂取されたか、あるいは長らく使われている台湾経由で吸収されたかは不明ですが、改革開放後から好まれた新語として中国の文化人に使われ始め、“米寿”の祝いを行うようになった次第です。


 一方、中国ではまだ広く知られていない“茶寿”までが日本語由来の新語として最も権威のある中国語の辞書に収録されたことに、正直意外でしたが、人生百年の時代を迎える21世紀には、108歳の高齢を祝う最もめでたい賀寿用語として日中両国ともに広く用いられればと願っています。


 このような数字に関連する中日の長寿を祝う語について、漢字自体は共通するものですが、なぜ「喜寿」、「傘寿」、「卒寿」ではなく「米寿」と「茶寿」だけが新語として中国語に吸収されたのかを考えると、やはり現代中国社会に見られる「8」という数字への拘りにあるのではないかと思われます。