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更新日:2018年11月07日

【国際学部】リレー・エッセイ2018(20)西村めぐみ「夢なき人の職業選択 -こんな職業選択の仕方もあります-」

夢なき人の職業選択 -こんな職業選択の仕方もあります-

西村 めぐみ


「あなたの夢は何ですか?」


 この問いかけに対して、将来就きたい職業を答えることが日本では暗黙裡に要求されている。「まだ決まっていません。」将来これといって就きたい職業がなかった私は、また、夢なき人として分類される回数が1回増えていく。


 高校、大学で、将来就きたい職業が決められない人は、決して少なくない。ただ、私の場合は、本当にヒドかった。大学を卒業して2年後、大学院の修士課程で、学業成績が全くパッとしない状況下にあっては、経済学研究を続ける道を諦めて、民間企業に就職するという選択肢を考えなければいけない。と当時の私もさすがに思った。しかし、恐ろしく似合わないリクルートスーツを買い、ウェブの適正試験を1社受験し、見事に速攻で落ちた後、やはり自分はまだもう少し経済学の研究を続けたいという正直な心の声が聞こえたことを言い訳にして、民間企業への就職を早々と断念し、研究の道へ戻った。通常、大学院に進学し、民間企業への就職という選択肢を無くすと、「その学問の研究者になる」という職業の選択肢しかほぼ残されていないことになるのだが、経済学の研究者になることを目指すという決断をする(夢をもつ)ことが私にはどうしても出来ず、夢なき人のままでいた。


 その後、さらに3年が経過して大学院博士課程になっても、私は相変わらず夢なき人のままであり、友人曰く「将来どこの海のものとも山のものとなるのかも分からない」浮草のような状態で、ダラダラ研究を続けている人生を歩み続けていた。


 研究をしていても全く何の業績も出ない、蝶で言えば蛹のような日々を送っていた私だったが、蛹時代を終わらせる環境が、自力ではなく周りの力で整えられていった。まず、大学・大学院の恩師のお陰で、経済学を鍛えなおすためのアメリカの大学院の博士課程への留学が実現し、そして、アメリカの留学先で、ティーチングアシスタント(TA)と、大学院生非常勤講師(GPTI)という仕事に出会った。TA・GPTIという仕事は、大学院生が授業料減額+少額の給与の見返りに大学から自動的に与えられる仕事で、TAは、正規の授業の補助的授業である演習を担当するのに対し、GPTIは正規の授業を教えるという仕事をするという違いがある。


 人前で話すことが苦手な私に、授業料減額と引き換えに大学院から与えてもらった「大学院生として経済学を研究しながら教える」というこれらの仕事、最悪な組み合わせに思えたが、やってみたら意外なことに実に面白い。


 高校卒業後間もないアメリカの大学生200人以上が座る教室に入った最初の瞬間は本当に生きた心地が正直しないし、こちらの教え方が少しでもマズイと教室を学生が次々と退出していくのでガックリ落ち込むことも何十回、何百回。しかし、こちらが面白いと思うことが相手に伝わる瞬間、学期が終わった後のThank you letter、授業評価アンケートに心を込めて書いてくれたメッセージ、そして心温かい学生たち(授業後 魚の複数形はFishesでなくFishですよとコッソリ教えてくれた方々にこの場を借りて感謝。) がいたおかげで、経済学を教える仕事は面白い!としみじみ感じる自分がいた。


 そして、いつしか自然と、恩師の方々のお陰で入学した大学院で、学費を賄うために大学からたまたま与えられた「経済学を研究しながら教える」という仕事が、私の将来就きたい職業となり、ようやく夢なき人状態から脱出することが出来たのである。


 みなさんの中にも、かつての私と同じように将来就きたい職業が決められずに悩んでいる方はおられないだろうか? もし、おられたとしたら、どうか余り悩まないで欲しい。世の中には、最初からこの職業に就きたい!と思ってその目標に邁進する人もいれば、私のようにやめられないものをダラダラと続けるうちに、完全に他力で、就きたいと心から思える職業に出会わせてもらえるケースも存在するのである。もちろん、自分が就きたい職業を自力で探す努力をやめるべきであるという主張をするつもりは毛頭ない。ただ、自分が就きたい職業に出会う方法は、自力で見つけるという方法以外にも存在するのだから、肩の力を抜いて、少し気持ちを楽にして、自分の就きたい職業を探してほしいと願うだけである。


 そして、もう1つ、職業を選択する際に、自分にその職業に就くだけの才能があるか、その職業に向きか不向きかについても、余り深く悩まないで、自分がこれぞと思った仕事に飛び込んで欲しい。人前で話すのが得意でなく、明らかに教員に不向きで、経済学の才能もないが、経済学を研究すること、教えることが好きであるという理由だけで、経済学の教員になった私という事例があるからではなく、たとえ、最初に自分が就いた仕事が自分の本来就くべき仕事とは違ったとしても、どの経験も決して無駄ではなく、あなたの強力な武器となるはずだからである。長々と個人的な経験を書き散らしただけになってしまったが、みなさんの職業選択の重圧を少しでも軽くすることが出来たら幸いである。