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更新日:2018年05月27日

【国際学部】リレー・エッセイ2018(5) 浅沼かおり「温泉歴史紀行」

温泉歴史紀行

浅沼かおり


 映画「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」をご覧になった方、あるいは夢枕獏の原作(『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』)を読まれた方がいるかもしれない。そうでなくても、唐代の詩人・白居易(字・楽天)が玄宗皇帝と楊貴妃のロマンスをうたった「長恨歌」の一節、


春寒賜浴華清池(春寒くして浴を賜う華清の池)  

温泉水滑洗凝脂(温泉水滑らかにして凝脂を洗う)


のおかげで、中国西安の華清池は日本でもよく知られているのではないだろうか。


 左下の写真は、楊貴妃が使ったといわれる「海棠湯」、右下は華清池に立つ楊貴妃像である。


 


 何十年も前に初めて華清池の浴槽遺跡をみたときには、湯屋がなかったように思う。そのときは「露天風呂だったのか」と見当はずれの感慨をおぼえた。現在は立派な建物が再建され、付属の博物館には、いまでも使えそうな古代の温泉管が展示されている。温泉ファンならずとも湯浴みしてみたくなるのが人情だが、もちろん、いにしえの皇族たちの浴槽は使わせてもらえない。観光客用の風呂は、少なくとも筆者が訪れたときは、(良くない譬えだが)どこか公衆トイレを連想させる「個室」タイプだった。内部は一体どうなっているのかー不案内な外国人に二の足を踏ませるものがあった。



 ぜひ伝説の名湯を味わってみたいという人にぴったりなのが、「華清愛琴海国際温泉酒店」(上の写真)である。「華清」はもちろん華清池である。「愛琴海」はエーゲ海だが、これは単なるイメージ戦略であろう。「酒店」は中国ではホテルを意味する。2018年現在のHPによれば、名泉「華清池水脈」によってはぐくまれた温泉で、湯温は43度、ハマナシ(ピンクのバラに似ている)、牛乳、ニガウリなどさまざまな養生処方がほどこされ、12の療養温泉と14の露天風呂がある。記憶をたどれば、たしかに湯船には、これでもかとばかりに様々な物体が浮かんでいた。壮観だったのが、お湯の入れ替えである。一つ一つ順番に大浴槽の銓が抜かれ、温泉が惜しげもなく放出されていた。衛生への強いこだわりが感じられた。 水着着用の男女混浴で、若い女性服務員たちが、お風呂のまわりに宮女のように侍立していた。(ただし日本と違って、SPAエリアは宿泊客でも別料金である。円高の時代でも、一瞬やめようかと思うほど高かった。)


 華清池は1936年の西安事件の舞台ともなった。一向に埒があかない共産党討伐に苛立ち、張学良らを叱咤激励しにやって来た蔣介石は、ちゃっかり名湯に浸かっていたのだ。下の写真は、華清池に残る「蔣介石浴室」の解説だが、西太后たちも、ここで温泉浴をしたと書いてある。西太后は1900年の義和団事件のさいに、ほうほうの体で北京を逃れ、遠く西安まで落ち延びたのである。



 蔣介石は根っからの温泉好きであった。第2次大戦後、台湾は日本を離れ、中華民国の一部となった。蔣介石はやがて台湾に拠点を移すことになるが、台北郊外・陽明山の温泉に入るのは彼の日課のようになった。台湾中部の「廬山温泉」(下の写真)も蔣介石とゆかりが深い。日本統治時代には「富士温泉」と呼ばれていたが、1950年に蔣介石がここを訪れて大いに気に入り、「廬山温泉」と改名した。(ちなみに映画「セデック・バレ」で有名になったモーナ・ルダオの村も廬山温泉の近くにあった。)



 新しい名は、中国江西省の廬山にちなんでいる。周囲を山に囲まれた景観が廬山に似ていると蔣介石は感じたという。大陸に覇を唱えていたころ、蔣介石は、かの名山を熱愛していた。南京の酷暑を逃れて涼をとるのに、廬山はほどよい距離にあった。台湾の廬山温泉も風情のある良いところだが、「本物」の廬山(下の写真)を訪れて愕然とした。その雄大さ、幽玄さ、名だたる文人墨客たちの足跡・・・まったくの別物だった。蔣介石は共産党に敗れて大陸を追われ、台湾にやって来た。「廬山」という名をつけたとき、その脳裏には、どんな思いがよぎったのか。「大陸反攻」の決意を新たにしたのか、落魄と望郷の念にかられたか。はたまた「住めば都」と腹を括って、新天地を満喫することにしたのであろうか。



参考資料:

鈴木浩大『湯けむり台湾紀行』まどか出版、2007年

『台湾の温泉&スパ』(旅名人ブックス)日経BP企画、2008年

呂芳上主編『蔣介石的日常生活』政大出版社、2012年

http://test.hotelaegean.com/index.php?m=content&c=index&a=lists&catid=14#page37



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