看護学部

Faculty of Nursing

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更新日:2021年09月13日

研究紹介

【看護学部】研究への扉 第8回 ~更生保護施設における薬物事犯者への支援に関する研究~

看護学部教員の研究紹介「研究への扉」 第8回です。今回は、精神看護学領域の渡邊敦子先生からご自身の研究についてご紹介いただきます。


Q.先生が取り組まれてきた研究テーマを教えてください。

A.薬物依存症の人々に対する支援とそれに関する研究を細く長く行っています。

Q.薬物依存症とは、どのような病気ですか?

A.覚せい剤や大麻、シンナー、睡眠薬など、特定の薬物を摂取し、その効果が切れてくるとまた薬物への欲求が生じてきてやめられなくなる、自分ではコントロールできない状態です。いったん依存に陥ると、薬物を得るために多くの時間や労力を要し、人間関係や生活への支障をきたします。薬物がやめられないのは意志や性格が弱いからではなく、薬物による脳の神経科学的な変化が原因で、依存から自力で脱出するのはとても困難です。

Qこの研究に取り組まれたきっかけを教えてください。

A.10数年前に精神科クリニックから友人が依頼された、薬物依存症の患者を対象とした訪問看護を代わりに引き受けたことが縁で、取り組み始めました。

Q.どのような人達を対象とした研究か教えてください。

A.まず研究対象としている人たちの背景を簡単に説明します。刑法には、裁判の段階で刑の一部を執行猶予し、刑務所の中での支援と社会生活をしながらの支援を連携させ、犯罪者が早く社会生活に適応する時間を確保し、再犯の予防を図る、刑の一部執行猶予制度があります。この制度は、初めて刑務所に入る人などが対象となりますが、薬物犯罪の場合は服役した後も薬物の使用を繰り返してしまうという現状から、2016年に薬物法という法律によって、初めて入る人以外に同じ薬物犯罪の前科がある場合でもこの制度が適用されることとなりました。薬物犯罪の場合、刑の一部執行猶予制度の判決を受けるのはだいたい4人に1人くらいです。刑務所からの出所直後は住居が確保できないことが多く、そのような人々に対して、罪種にかかわらず更生保護施設という民間の施設が対応し、宿泊や食事の提供、就労指導、必要な医療や福祉が受けられるような支援を行っています。私が今行っている研究では、薬物の問題のために更生保護施設に入所している方々と、施設の職員の方々を対象としています。

薬物法による刑の一部を執行猶予制度については、「依存症対策全国センター」のホームページでわかりやすく、詳しいことが説明されていますので、ご関心のある方は以下のリンクからご覧ください。

https://www.ncasa-japan.jp/policy/suspended

Q.どんな方法で研究を行っておられるのか、教えてください。

A.更生保護施設を管轄している法務省や保護観察所のご協力を得て、更生保護施設の職員や入所者に対しアンケート調査を行ったり、実際に施設に赴いてインタビューを行ったりしています。それによって、施設で入所者に提供されている支援の実態や、薬物法の刑の一部執行猶予制度が開始されてからの変化などを把握して、より充実した支援システムの構築を目指しています。

Q.研究によって得られたことは何か教えてください。

A.新たな制度についての調査により、それ以前から存在していた問題が明らかになったことです。問題はいくつかあるのですが、その中でも重要なのは、支援をする側の薬物依存に対する理解がまだ不十分であることだと考えます。その理解が深まっていくことで、薬物依存に陥った人たちを取り巻く環境を、良い方に変えていけると思います。

Q.最後に看護師を目指す皆さんへのメッセージをお願いします。

A.看護の対象は、社会の中のあらゆるところに存在します。また、看護の対象となる人々の社会的背景もさまざまです。私は、看護学とは多様な学問が集まってできた分野なのではないかと思っています。医療保健福祉だけではなく様々な分野に関心を持ち、ご自分の視野を広げていっていただきたいです。

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