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vol.25

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

人間関係をスムーズにする! 「ピア・メディエーション」の活用法

2020.01.24

中学生や高校生の頃、グループワークを行うと、やる気を失ってサボる学友や仲間と喧嘩を始める学友に遭遇したことはありませんか? 学校生活におけるこうしたネガティブな態度や揉め事などから生じるトラブルに、皆さんはどう対処していたでしょうか。

学校内トラブルの解決法として今、世界で注目されているのが、互いの気持ちを仲間からの援助も借りながら、対話を通じてお互いの本当の気持ちや動機を協力しながら理解し合うことを通じて、学生同士で平和的に解決する「ピア・メディエーション」という手法です。欧米の学校教育の一部ではすでに一般的な手法として採用するところもあり、最近では日本の中学高校にも導入されはじめているのだとか。

ピア・メディエーションとは一体どのようなもので、なぜ有効なのでしょうか。共立女子大学文芸学部で、ピア・メディエーションについて研究を行なっている北村弥生教授に、その重要性や活用法を伺いました。
 
「社会の中でトラブルが起きた際の解決方法を大きく分けると、裁判所で法律に基づいて勝ち負けを決める『訴訟』、裁判所以外で弁護士など第三者から最終解決案をだしてもらう『仲裁』、さらに当事者同士だけで話し合う『交渉』などがありますが、もう一つ最近特に注目されているのは、紛争当事者の対話に第三者が膝を交えつつ両者の合意形成を支援する『メディエーション(対話促進型調停)』というものです。これがピア・メディエーションの基礎となっている考え方です。また、メディエーションで当事者の対話促進を支援して問題解決に取り組む人は『調停人(メディエーター)』と呼ばれます」

交渉、仲裁、調停による紛争解決は、訴訟ではないやり方で行う紛争解決の試みであることから、「ADR(Alternative Dispute Resolution)=裁判外紛争解決手続」といわれ、現代社会で大変重要なものとなっています。

「アメリカは、訴訟で白黒つけたがる社会だというイメージがありますが、実は、費用も時間もかかる訴訟より、廉価で迅速であると同時に手続が比較的柔軟で当事者の納得に基づく解決を導ける点で、ADR(特にメディエーション)が訴訟に代わる重要な選択肢であるという考えが社会に広がっているのです。1980年代のアメリカの初等中等教育にこうした考え方が浸透したのは、学校内で人種差別や麻薬などの問題が多発するなかで、罰則で生徒を縛り付けるのではなく、メディエーションの考えを取り入れて、生徒自身にメディエーターの役割を担ってもらい、生徒同士でいざこざを解決できる力を育もうという動きが生まれたからです」

そこで、「仲間や同僚」同士という意味のピアという言葉をつけ、学校内でのトラブルに対するメディエーションを「ピア・メディエーション」と呼ぶようになりました。

「私は、これまで大学の授業でグループワーク(小グループによる共同学習方法)を多く取り入れてきましたが、グループワークには何らかの不協和音が必ず伴います。生い立ちも性格も考え方も異なる学生たちが協働作業を行うわけですから、そうしたトラブルの発生は当然でありとても自然なことなのです。その中でもよく起こるのが『フリーライダー(ただ乗りをする人)』問題です」

「フリーライダー」とは、グループごとに課題や共同作業に取り組む際、何らかの理由でモチベーションを失い、作業に参加しなくなってしまう人のこと。こうした学生が現れると、グループ内の人間関係がギクシャクし始めてトラブルになるのです。ただし、「フリーライダー」という呼び方には注意が必要だそう。

「『フリーライダー』というと、他の人の労力に『ただ乗り』して迷惑をかける人といった響きがありますが、ただその人を非難すればすむという問題ではありません。その際に何よりも必要なのは、そのように振る舞わざるを得なくなっているその人が抱えている背景や理由を深く理解しようとすることです。例えば、自分のやりたいことがグループのメンバーと一致せず、それを主張できないままグループの流れについていけなくなった結果、やる気を失ってしまっているのかもしれません。そのような場合には、グループの誰かが『ピア・メディエーション』の考え方を使って、その人の思いや事情について傾聴し、グループの他の学生との相互理解を支援することによって、『フリーライダー』扱いされている人を仲間との協働作業に戻してあげたり、そもそもそうした人がでないような人間関係、学習作業環境を作り上げることを手助けできるのです」


下記の図は、日本における紛争解決の手法におけるピア・メディエーションの位置づけに関する概念図です。

(C)2020 YAYOI KITAMURA


これは、人の表面の主張や要求だけではなく、そうした「主張や要求をせざるを得ない真の動機やニーズを深く探求して見つけ出す」ということですが、これを可能にするのが、ピア・メディエーションという考え方やメディエーターの技法なのです。

「さらにこういう別の技法もあります。例えば、AさんがBさんとの約束の日までに必要なデータをそろえる事ができずに、みんなの作業が進まなくなってしまった場合を考えてみましょう。そのとき、ピア・メディエーションの考え方を学んでいるBさんならば、“あなたはどうしてそれをやらなかったの?”とその『人』の行動の責任を追及するのではなく、“何の問題が起きたのか教えて”と、『問題』それ自体に焦点を移して、『未来への共同作業』として一緒に問題を解決していこうという姿勢を示すことで、トラブルを有意義な協働作業へと転換することができるのです。これは『問題の外在化』といわれるメディエーションの技法のひとつです」

「こうして考えてみると、グループでの不協和音は、学習上取り除くべきトラブルの原因というよりも、相手を傷つけることなく平和的な対話をすすめて、グループ全体で問題を乗り越えるトレーニングのためのまたとないチャンスということが言えるでしょう。ピア・メディエーションの考え方を使えば、グループワークで生じるギクシャクしたムードも和気あいあいとしたムードに変換することができるのです」

これらの手法はほんの一例で、ピア・メディエーションにはそのほかにもたくさんの有効な考え方や技法があるそうです。

「日本では、すでにスウェーデンを見本として、ピア・メディエーションを取り入れる公立高校もあります。昨今は日本にも外国人労働者が増え、学校においても外国人生徒の在籍が珍しいことではなくなっています。さらに日本人同士でさえも、メディア技術の多様化によって好みや考え方が多様化しつつあります。そうした多様な価値をお互いに理解しあい対話を深めることがますます重要になりつつある現代で、相手の背景を理解して尊重するピア・メディエーションの考えを取り入れていくことは急務と言えるでしょう」

ピア・メディエーションの考え方は、企業などの仕事の現場でも社員同士のトラブルの解決のために使われ始めています。これを学生時代に学び、社会に出る前に紛争解決のためのスキルを身につけておくことが、より良い社会生活や職業生活を送るための大切な基礎となることでしょう。共立女子大学では、ピア・メディエーションを学べる授業(「DTP基礎実習B」「文芸メディア演習ID」など)もありますので、ぜひ参加してみてくださいね。

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 文芸学部

北村弥生 教授

専門分野は、新領域法学、メディア社会論、状況学習論のほか、人間自身がメディアとなることにより、人々の実践が変容したり新たな文化が創発されたりする現象(アニメ聖地巡礼から平和的な紛争解決まで)を追い続けています。最近は、ピア・メディエーションの研究を精力的に行っています。

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