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vol.22

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

私たちの暮らしに欠かせない、3Dってどんなもの?

2019.04.25

いまや建築やデザイン、そしてゲームや映画の世界でも、欠かせない技術となった3D(スリーディメンション)。3Dの進化で、これまで実写では表現できなかった非現実的な世界が次々にスクリーンの中で実現されるようになりました。最近では、3D技術をさらに進化させたVR技術も実用化され、ヴァーチャル・リアリティの世界をよりリアルに体験できるようになっています。
 
こうした2D、3D技術を含むCG技術の進化は、私たちの暮らしにどのような影響を与えているのでしょうか。建築学の分野で3D技術に詳しい共立女子大学家政学部長建築・デザイン学科の戸田泰男教授に、3D技術とはそもそもどのようなもので、今後私たちの暮らしにどう関わっていくのか話を伺いました。
 
「3Dの話をする前に、まずは2Dによる“図”と“絵”の違いを理解する必要があります。絵とは、人の心を通してある対象を外に表出させたもので、画家による作品などがそれにあたります。一方、図とは、対象の形を第三者へ正確に伝えるために作られるもので、誰が描いても、誰が見ても、等しい情報になることが条件です。建築における設計図などは、そのために決められた規則のもとで製図を行うことが定められています」
 
建築設計図を作成するための技術の一つに、投象法というものがあります。立体物(被投象物体)を光で面に投象し、その立体物を2Dで正確に紙に表す技術です。1つの図面で表す単面投象や、3枚の図面で表す複面投象などの表現パターンがあるそう。

▲製図のための投象法の授業で、被投象物体として使われている立方体


「こうした2Dの製図をコンピューターのなかで立体的に表すことを可能にしたのが3D技術です。いまでは一般的になったソフトウエアCAD(Computer Aided Design)は、こうした2Dや3Dの図面を簡単に製作するために生まれたものです」
 
2Dが一般的であった時代は、立体物や建築物を図面にする際、自分の頭の中で想像しながら図面にしていましたが、3DやCADの登場で、自ら考えることなく容易に立体の製図にすることができるようになったのです。この進化は製図の効率性を高めた一方で、大きなデメリットも生んでしまったと戸田教授。
 
「CADの使用が一般的となった現在、トップクラスの建築学部の学生でさえ投象法の勉強をきちんと行っている人はごく少数です。CADがすべてやってくれるので、投象法を知らなくても困らないのです。大学の授業でも、投象法は自分でマスターしてくるべき分野として認識されており、きちんと教えてもらえません」
 
これにより現代の建築家は考える力を失いつつある、と戸田教授は警鐘を鳴らします。
 
「たとえば以前の建築家は2Dの製図を見たら、この建物の裏側はどうなっているか? 建物の影はどう落ちるのか?という見えない部分について想像を働かせていました。そして想像したものをまた自らの手で図面に落とし込み、その過程でデザインを練りなおし、図面と向き合って、よりよい建築を生み出していたのです」
 
しかし3Dの登場で、この“考える作業”が不要になったため、現在の学生は、図面に総合的に向き合い、熟考することをやめてしまいました。そして、スケール感や空間把握、質感などを推測する力までも低下してしまったのです。
 
「だからこそ本学における建築の授業では、学生に頭のなかで立体物を360度イメージできるシステムを持ちなさいと教えています。授業では投象法の講義を実施し、頭の中の立体物を自分で紙に描く能力を身につけてもらっています。CADを使うと一瞬で画面に表示されてしまうので、自分の頭で熟考する時間がまったくありませんが、図面を自分で描くと、考えるスピードと表現するスピードが同じであるため、その立体物にきちんと向き合うことができるのです」
 
描いた形に間違いがあれば、また訂正して……という作業を繰り返すことで、グラフィック・シンキングの正しい回路が出来上がっていくのです。こうした、作業ができるかできないかで、総合的な能力に大きな差がでてくるといいます。
 
「こうした考える力の低下問題は、建築の世界だけの話ではありません。たとえばいまの子どもは小説を読まないため、空間や情景をイメージできなくなっています。アニメーションをはじめ、視覚からの情報が多くを占める現代人は、想像力を働かせる機会がなくなってきているといえるでしょう」
 
一方、昔の人は限られた情報をもとに様々な想像を行っていました。たとえば、『暗い部屋のなかで』という記述を読んだ時、その“暗さ”や“雰囲気”をどう想像するかは人によって多種多様なイメージを持つものでした。しかし、考える力が低下することで、現代の子どもたちはそのようなイメージの多様性を持ちづらくなっているのです。この状況がさらに進むと、戸田教授は頭の退化につながると考えているそう。
 
「人は、視覚や匂いや音、触覚など五感をフル活用して様々な事象と向き合い、理解しています。ところが、視覚的な情報に頼りきった状態が続けば、ほかの感覚が退化して、最終的な脳が全身をコントロールできなくなってしまう危険性さえあるのです」
 
とくに3歳までの幼少期や小学生などの子ども時代に、土に触れたり、風を感じたり、と外の世界でたくさん実体験することが重要であり、きちんと五感を育てることで、バランスのとれたしかるべき大人に育っていくといいます。
 
「3Dは、私たち人間の暮らしを豊かにする技術であることは確かですが、自分自身の感覚を大切にしていくことを忘れてはいけません。3Dに頼りすぎることなく、3Dとうまく付き合っていくことが大切になると思います」

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 家政学部 建築・デザイン学科

戸田泰男 教授

共立女子大学 家政学部長。専門は、建築学、地域研究、文化人類学、図法幾何学。研究分野は、都市計画、建築計画 建築史、意匠、地域研究、文化人類学、民俗学、図法幾何学など、多岐に渡る。

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