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vol.16

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

私たちの生活を彩る「タイポグラフィ」について知ろう!

2018.03.22

私たちの生活には、たくさんの文字が溢れています。雑誌やインターネットはもちろん、街を歩けば看板や道路の標識、店頭に並ぶほとんどの商品にも文字が印刷されています。
 
こうしたさまざまな文字のデザインや組み方は「タイポグラフィ」と呼ばれ、私たちの生活や行動に大きな影響をもたらしているのだとか。そこで共立女子大学家政学部建築・デザイン学科で、グラフィックデザインやタイポグラフィについて教える田中裕子准教授に、社会における文字の役割について伺いました。
 
「フォント(書体)は、日本語対応のものだけでも非常にたくさんの種類が存在しています。その中でもベーシックなのが明朝体やゴシック体。明朝体は知的で真面目な雰囲気ですが、ゴシック体はシャープで力強い雰囲気、と見る人にそれぞれに違った印象を与えてくれます」

▲株式会社モリサワの明朝体「リュウミン R-KL」(画像提供/株式会社モリサワ)
▲株式会社モリサワのゴシック体「新ゴ B」(画像提供/株式会社モリサワ)

たとえばコンビニの商品のロゴで、明朝体が使われているのとゴシック体が使われているのでは、まったく印象が異なりますよね。私たちが何気なく目にするたくさんの文字は、目的や読みやすさ、ターゲットなどに応じて数多くのフォントの中から選ばれ、デザインされたものなのです。
 
「森永乳業から発売されている『MOW』というアイスクリームブランドは発売当初、ミルクが持つなめらかさを表すモコモコとした可愛い印象の文字のデザインをブランドロゴに使用していました。市場が変化し、贅沢さや品質の高さが求められるようになると、味の変更に加えて、パッケージリニューアルを実施。商品ロゴを上品で洗練された印象のローマン体に変えたことが効を奏し、一時期下がっていた売り上げがV字回復したことで知られています」
 
私たち消費者は、無意識のうちにパッケージのデザインや文字などから商品のイメージを認識し、商品を選択しているのですね。
 
「また公共の場では、読みやすさが重要になります。とくに日本では、ゴシック体に丸みをもたせた柔らかい雰囲気の丸ゴシック体が公共の場で多く使用されています。面白いのは『立ち入り禁止』『危ない!』といった厳しく注意を呼びかけるような標識にも丸ゴシック体が使われていることですね」
 
柔らかい印象のフォントを使うことで、角を立てずに伝えたいという日本人の思いがあるのかもしれません。欧米人から見ると、あらゆる公共の場で丸ゴシック体を採用している日本人の感覚は不思議に感じるようです。

▲共立女子大学前の道路標識にも和文に丸ゴシック体が使われています


「一方、欧文フォントでベーシックなのが、ローマン体やサンセリフ体、エジプシャン体、スクリプト体(筆記体)など。ローマン体の源は、紀元113年に建てられたトラヤヌス帝の記念柱に刻まれた碑文といわれ、これをベースにして生まれたフォントのひとつにTRAJAN(トゥレイジャン)があります」
 
古典的で威厳のあるTRAJANは、海外で製作された歴史映画のタイトルロゴや大学のロゴタイプなどに多く使用されているのだとか。
 
「さらに古代ローマの碑文をベースとしたサンセリフ体のFutura(フーツラ)というフォントは、幾何学的ではありますが古典的な雰囲気のある書体としてラグジュアリーブランドのブランドロゴなどにも使用されています」
 
ブランドイメージに伝統的な雰囲気や高級感を持たせたいというブランド側の狙いを読み取ることができます。ちなみにサンセリフ体のFrutiger(フルティガー)と呼ばれる書体は案内・誘導標識など公共の場で広く使用されているのだそう。
 
「もとはパリのシャルル・ド・ゴール空港の案内標識のためにデザインされた書体でシンプルで見やすく、判読性の高さから後に公共の場の他、企業や組織、大学などの制定書体としても人気があります。海外では企業が独自の制定書体を書体デザイナーに依頼するのは珍しくはありません」
 
企業が独自の制定書体を持つことで、ブランドイメージ確立へと繋がるのだとか。また、フォントが都市のブランディングの要となっている海外の例も。
 
「1916年に制作されて以来100年にわたり人々に愛され続けてきたロンドン地下鉄のジョンストン書体が挙げられます。日本でもフォントがアイデンティティ形成へ導く試みとして、横浜の『濱明朝』や名古屋の『金シャチフォント』などが作られ、注目を集めています」

▲Futura(フォント見本)ドイツのパウル・レナー (Paul Renner)がデザインした書体。きれいな幾何学的外観にクラシックな雰囲気を醸し出す。学生も好んで使用するフォントなのだとか
▲Johnston(フォント見本)エドワード・ジョンストン(Edward Johnston) が、1916年にロンドン地下鉄のためにデザインしたサンセリフ書体
▲横浜の都市フォント「濱明朝」のデザインには、港の町並みや船をイメージした曲線や直線が随所に取り入れられている(画像提供/タイププロジェクト)

これらの都市フォントは、街の風景やシンボル、そして文化までも取り入れてデザインされています。タイポグラフィの発達により、文字は単なる表示機能だけでなく、対象のイメージや背景、思想までも担うようになったのです。私たちも意識して文字の裏側に込められた想いを見てみることで、新たな発見があるはず。ぜひ、目に留めてみてくださいね。

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 家政学部 建築・デザイン学科

田中裕子 准教授

グラフィックデザインを中心に、タイポグラフィ、ウェブデザイン、UIデザイン、デザイン教育の研究を行う。国立研究開発法人 情報通信研究機構、新日鉄住金ソリューションズ、人間文化研究機構 国文学研究資料館、情報・システム研究機構 国立極地研究所等のウェブ作品など多数。日本デザイン学会、日本タイポグラフィ協会、日本家政学会所属。

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