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vol.15

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

〜日仏友好160周年記念〜 皆さんはフランスのこと、どれくらい知っていますか?

2018.02.23

2018年は、日本とフランスが交流をはじめて160年。これを記念してフランスでは8カ月間にわたり、日本のさまざまな文化を紹介するイベント「ジャポニスム2018」の開催が予定されています。
 
フランスに憧れを持っている学生の方も多いと思いますが、フランスの本当の意味での文化や国民性について、意外と知らない人も多いのではないでしょうか。そこで、今回はフランス語やフランス文化がご専門の共立女子大学文芸学部フランス語フランス文学コースの田口亜紀教授に、フランスと日本の関わりやフランス人の価値観について話を伺いました。
 
「日本とフランスの交流の歴史は、1858年に締結された日仏修好通商条約までさかのぼります。以来、さまざまな交流によって良好な関係が続いてきました。国同士で、過去に戦争などのつらい過去があると、その後交流があっても一筋縄ではいかないもの。ですがフランスと日本は、そうした経験をせずに済んだため、互いの文化や芸術に対する憧れを純粋なまま育むことができたのです」
             
フランスでは19世紀から、北斎や写楽などの浮世絵や日本芸術との出会いから生まれた“ジャポニスム”が、万博をきっかけに広く社会に浸透し、評価されてきました。ジャポニスムとは、日本の芸術から見出された技法や素材、背後にある美学のみならず、生活様式や世界観を含む日本への関心を指します。こうした芸術を通した日本への憧れは、江戸時代の頃にはじまったのだとか。
 
「江戸時代、日本は鎖国中でしたが、工芸品の貿易は盛んに行われていました。オランダを通じて、フランスにも日本の工芸品が輸出されていましたが、フランス人はその工芸品の包み紙となっていたくしゃくしゃの北斎漫画を見て、『こんな斬新な構図は西洋にない!』と驚いたのです。日本ではゴミ箱行きの緩衝材として扱われていた浮世絵の版画が、モネやゴッホなどの画家に強い影響を与えたことは有名な話です」
 
世界で名を馳せた稀代の巨匠たちが、江戸時代の日本芸術に強い影響を受けていたことは、日本人として誇るべきことですよね。そして、実際に開国を迎え、交流がはじまります。
 
「開国後は視察などの政府レベルの交流にはじまり、民間レベルでも画家が絵を学ぶためにパリへ留学するなど、次第に交流の裾野は広がっていきます。今回の『ジャポニスム2018年』は、そうした日仏友好の記念として、改めて日本の文化を知ってもらうべく、開催されることになったのです」
 
イベントでは、縄文、伊藤若冲、琳派、最新のメディア・アート、アニメ・マンガ・ゲームの展覧会や、歌舞伎、能・狂言、現代演劇の公演が予定されています。また食、祭り、禅、武道、茶道、華道ほか、日本人の日常生活に根ざしたいろいろな文化の側面にも焦点を当てるのだとか。
 
芸術や美食に関心の高いフランス人なら、きっと興味を持って見てくれるはず。日本について、より深く知ってもらう機会になりそうですね。

▲フランスでは、子供の頃から日本のアニメに親しむ機会が多くあり、こうした漫画や芸術に関する本なども多く出版されている


一方、私たちがフランスに対して抱くイメージといえば、自由・平等・友愛、恋愛至上主義、個人主義といったもの。実際はどうなのでしょうか。
 
「フランスでは、個人が尊重されます。女性もあくまで個人として自立しており、結婚後も80%の女性が仕事を続けます。たとえ相手と別れても生活していけるし、それが当たり前なんです。50%のカップルが結婚していないのも、他にも理由があるでしょうが、多くはそうした考えからのようです」
 
大学まで学費は国が負担するという社会制度や、社会で女性が働きやすい環境にあることも理由のひとつのようです。また、離婚に対しても批判的に思う人はあまりいないのだとか。
 
「シングルマザーも珍しい存在ではなく、宗教の束縛を受けない場合、離婚後に子供と新しいパートナーとやっていくことも倫理的になんの問題もありません。だから、女性は精神的にとても自由。社会的な圧力を感じることも少ないのです。日本でも女性はもっと自由に生きていくことができたらいいなと思いますね」
 
結婚後に働き続ける女性は日本でも増えつつありますが、子育てとの両立はまだまだ大変なこと。それができる制度を確立し、周りも寛容に受け入れて、社会的にもっと女性が個人として生きやすいと感じる世の中を目指したいものです。
 
それにしても、フランス人のそうした考えはどこから生まれてくるのでしょうか。
 
「彼らは子供の頃から、考える習慣を身につけています。学校では哲学の授業が必修で、なぜ生きているのか?といったことから考えさせられます。物事の原点を考え、それに対して自分の意見や人と違う個性を持つことの大切さを教わるのです」
 
常識や慣習にとらわれず、どんな状況でも多角的に考えようとするからこそ、一人一人の意見や個性を尊重し合い、自立の心が芽生えていくのかもしれません。
 
これから日本の社会が変化していくなかで、私たち日本人もそうした “個人を尊重する精神”を取り入れてみる必要がありそうですね。

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 文芸学部 フランス語フランス文学コース

田口亜紀 教授

フランス語を中心に、フランス19世紀文学、仏語圏旅行文学、日仏比較文化、観光文化学を研究。研究テーマは、フランス・ロマン主義、旅行記、日仏交流、女性と社会、観光文化、ネルヴァル、ブーヴィエなど多岐にわたる。NHKラジオ「まいにちフランス語」の講師を務め、NHK Eテレ「旅するフランス語」の番組監修も行っている。

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