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vol.12

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

私たち女性に深く関わる“コスメ・マーケティング”について知ろう!

2017.11.09

皆さんは普段、どのようにして化粧品を選んでいますか?
 
2万社以上のメーカーがあるといわれる日本の化粧品産業。市場は多種多様なブランドや製品で溢れかえっています。それら無数の化粧品のなかから、消費者が自分にとって本当に価値のあるアイテムを選び出すことは簡単なことではありません。
 
そこでみなさんに、化粧品だけでなく消費行動全般において賢い選択眼を持ってもらうため、大手化粧品会社で長年“コスメ・マーケティング”に従事し、現在は共立女子大学家政学部被服学科でマーケティングについての講義を行う藤田雅夫教授に、マーケティングの視点から世の中の製品がどのようにして生まれているかについて伺いました。
 
「マーケティングという概念には様々な定義がありますが、私はマーケティングを“価値提供システム”と解釈しています。これは、企業が消費者にとって価値のあるものを見つけ、提供する方法を確立し、確実に伝達するシステムを創り上げることを意味しています」
 
たとえば、Aという製品に価値を感じるかどうかは人によって異なります。アイドルグループのコンサートに1万円を払う若い女性が、演歌歌手のコンサートに同額を払う可能性が低いように、性別や世代、趣味嗜好などにより価値を感じる対象は大きく異なってきます。マーケティングの第一歩は、こうしたターゲット(価値)の選択(1)から始まるといいます。
 
「マーケティングは大きく、(1)価値の選択、(2)価値の提供、(3)価値の伝達という三段階に分類できます。先に挙げたターゲットの選択は、価値の選択の一つ。そして、決定したターゲット層のニーズ調査、ニーズを汲んだ上での購買決定要因の抽出、製品価値の伝わるパッケージ作りを行います。売れる商品を生み出すためには、この価値の選択が重要になります」
 
企業側の心理として、売り上げを伸ばそうとターゲットを広げがちですが、それでは製品の価値がぼやけてしまうそう。むしろ基礎化粧品などで、“50肌”“赤ちゃんにも使える”とターゲットを絞りこんだ製品がロングセラーになっている事例もあり、藤田教授によればこれこそがマーケティングの成功例なのだといいます。
 
「50代の肌に効くなら…、赤ちゃんに使えるほど優しいなら…と絞り込むことでより効果的な印象を与え、ターゲット層以外の人にも価値を感じてもらうことに成功したマーケティングの理想的な事例です。ただし、製品としてどっちが良い悪いということはありません」
 
ターゲットを定めたら、次はいよいよ製品化。(2)価値の提供の段階です。ここでは材料の調達や生産、物流の確保、価格設定が行われます。価値の選択に成功し、ヒット商品になっても、安定した提供システムがなければ継続的な販売は実現できないといいます。
 
「しまむらやユニクロのように、低価格で質のよいものを継続的に提供できる企業は、価値の提供システムがしっかり整っています。企業が低価格の商品で勝負するには、ローコストで安定した生産、物流を行うシステムを持っていることが絶対条件なのです」
 
そして最後は、(3)価値の伝達です。これは製品の価値を消費者に伝える作業。とくに、実際に消費者と接する販売員や営業マンがその製品の価値をしっかりと理解し、いかに消費者に伝えていけるかで売り上げは大きく変わってくるそう。
 
「どんなに質がよい製品でも、価値の伝達に失敗すれば売り上げは伸びません。マーケティングにおいても絶対に欠かせない重要な工程です。一方で、販売員や営業マンが伝達に力を入れても製品の質が悪ければリピーターはつきません。また製品の質が高く売り上げが伸びても、生産体制が整っていなければ継続的な提供は不可能です。つまり、どの段階が欠けてもロングセラー商品は成立しないのです」
 
ゆえにマーケティングは、専門部署だけが行うものではなく全社的活動として取り組むもの、と藤田教授。ちなみに日本の企業はメーカー志向が強く、価値の提供=ものづくりの部分に強い一方、価値の伝達の領域が弱点なのだとか。

▲マーケティングの3段階を図にしたもの。価値の選択によって生まれるニーズ型だけでなく、研究開発チームの発見によって先に技術が生まれるシーズ型も新たな価値の創造として重要


「実際、化粧品業界でマーケティングに成功した企業をあげるなら資生堂です。大正時代から制度品流通とよばれる日本独自のチェイン店システムを生み出し、日本企業の弱点である価値の伝達を克服。成功を収めたことで知られています」
 
チェイン店システムとは、全国に自社の販売会社を持ち、契約店のみで販売を行う販売手法。知識の豊富な美容部員がカウンセリングを行い、消費者の情報を収集。一人一人に合った価値のある化粧品を提供するというもの。
 
「いまでは下火になりましたが、最盛期の昭和30〜40年代頃はこのチェイン店での売り上げが全体の4割以上を占めていました。その後、他社もこの手法を追随するようになり、メナードやPOLAなど訪問販売に絞るメーカーも登場します」
 
化粧品流通の仕組みは、この制度品流通や訪問販売のほか、一般品、通信販売品、業務用品があります。現代では、女性が働きに出て忙しくなったことやセルフ志向の強まり、インターネットの普及などにより、通信販売がもっとも伸びているそう。
 
「情報が溢れる現代において、製品の価値は企業側からではなく、消費者自らが取りに行かなくてはならない時代になりつつあるようです。しかし薬局や百貨店でも美容部員と接するチャンスはしっかり残されています。自分に適した購買法を見つけてみましょう」
 
製品が企業のどのような思惑によって作られ、販売されているのかを見極め、自分にとって本当に価値のある製品を手に入れてくださいね。

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 家政学部 被服学科

藤田雅夫 教授

マーケティング、企業経営に関する研究及び被服心理学を教えている。

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