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vol.26

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

学習効果に深く関わるWEB会議システムについて知ろう!

2021.09.13

いまだ続く、新型コロナウイルスのパンデミック。こうした中、オンライン授業やリモート会議を行うため、遠隔通信技術を使った「テレビ会議システム」が広く利用されるようになりました。しかし、急速に一般化した半面、様々な問題点も指摘されていて、教育効果の妨げやビジネス上のトラブルを引き起こしているのだとか。
 
共立女子大学文芸学部で、情報科学や教育工学を専門にする谷田貝雅典教授は、こうした「テレビ会議システム」の研究を10年も前から行い、今回浮き彫りになった問題点についても、様々な研究により明らかにしてきたといいます。
 
そこで、今後さらに重要な通信ツールの一つとなっていくであろう「テレビ会議システム」について、教育現場における問題点と改善策を中心に、未来像についてもお話いただきました。
 
「離れた相手と顔を見ながら話ができるテレビ会議システムですが、現在普及しているシステムは通信相手と視線が一致しません。通話中は基本的に相手の顔が映る画面を注視しますが、パソコンやスマートフォンのカメラは画面の上など離れた場所にあるため、どうしても視線がずれてしまうのです」
 
すると対面で無意識に感じ取っている相手の“空気感”がわからなくなり、コミュニケーションが阻害されてしまう、と谷田貝教授。これは、なぜなのでしょう?
 
「人間は言葉を話す前から集団で狩猟を行っており、その際、独自に進化した目を使って、獲物に気付かれないようにアイコンタクトでコミュニケーションをしていました。人の目は強膜(きょうまく)という白目の部分に着色が無く乳白色で、大きく横長に露出しています。これにより彩光という黒目の部分とのコントラストがはっきりとしており、他者がどこを見ているのかを認知することができます。ちなみに、他の哺乳類では強膜は黄土色などの着色が見られ、黒目の部分が大きく白目の部分はほとんど見えないです。つまり、『目は口ほどに物を言う』ということわざは、人間が地上に出現した先史時代から受け継がれた言葉よりも古いコミュニケーションとして、大切なものであることも表していると言えます」


このような人のアイコンタクト能力はとても敏感で、5メートル先で相手の黒目が0.8ミリ動いたことも認知できるほどです。つまり、それだけ人間のコミュニケーションにとって「視線」は重要なものなのです。
 
映像通信技術において高精細、高画質などの技術が進歩を続ける一方、このような“使い心地”に関わるヒューマンインターフェイスの側面は遅れをとっているといいます。では「テレビ会議システム」の視線不一致は、教育現場にどのような影響をもたらしているのでしょうか。
 
「私が専門とする教育工学は、新しいICT機器などを教育で利用する方法を探ったり、教育の効果を科学的に数値化し評価する分野です。テレビ会議システムを使った遠隔教育の教育効果を研究していく中でも、通信相手である先生との視線不一致が生徒の教育効果にも影響を与えていることがわかりました」
 
谷田貝教授が行なった高校生を対象とした視線一致型テレビ会議システムを用いた実験によると、視線一致の状態で遠隔授業を行ったところ、対面による授業と学習効果に変化はありませんでした。一方、現行のテレビ会議システムである視線不一致の遠隔授業では、生徒が「いつ指されるか」「先生は次に何をするのか」など状況の推測が難しくなり、緊張状態が続いて負荷が増大。疲労感や飽きが起こって学習効果が下がりやすくなったのです。
 
さらに、谷田貝教授は高校生のタイプによって学習効果が異なることも明らかにしました。
 
「性格適性検査と学校傾向検査という2つの検査を実施し、生徒の特性ごとにオンライン授業に対する向き不向きを調べました。すると、不登校気味の生徒や学校に不満感情のある『不適応傾向』の生徒は、現行のテレビ会議システムである視線不一致型では学習効果が下がり、積極的で陽気な『外交傾向』の生徒に関しては、私共が開発した視線一致型で学習効果が上がることなどがわかりました。また、『基礎学力が高い』生徒は視線一致・不一致などの環境にはあまり左右されないことなどもわかりました」
 
生徒の特性で教育効果に差が出るため、一律にオンライン授業を学校教育に適応するのは検討の余地があると谷田貝教授。教鞭をとる先生が生徒の特性やシステムの利点や欠点を理解した上で、授業を行う事が教育現場に求められているのですね。

▲裸眼3D視線一致型テレビ会議システムを使って遠隔通信を行なっている様子

「同時に、現行の視線が合わないテレビ会議システムの弱点を補う方法もわかりました。お互いのモニターは大きいほど疲労感が無くなる。発言者、特に先生は発話時に画面ではなくなるべくカメラ目線で話し、発話の視線を伝える。意識的にうなずいたりオーバーアクション等を行い削がれるノンバーバルコミュニケーションを積極的に補う、など。もちろん、これらの弱点は私共で既に開発が完了している画面の中心にカメラを埋め込んだ視線一致型テレビ会議システムが一般に普及すれば克服されます。とはいえ、二次元の平面モニターではまだまだ伝わらないこともあるため、3Dメガネのいらない裸眼3Dモニターの活用や湾曲モニターで視野の範囲をカバーして没入感をアップするなど、改善を続けながら対面と遜色のない通信を可能にして行くことを目指しています」と谷田貝教授。
 
既に谷田貝教授の授業では、裸眼3D視線一致型テレビ会議システムの研究試作機も体験できるのだとか! さらなる技術の進歩によってよりリアルなコミュニケーションを実現するシステムが製品化され、豊かなで自由な教育環境が実現する日が楽しみですね。

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 文芸学部

谷田貝雅典 教授

専門分野は、情報科学、教育工学、情報教育、科学教育、遠隔教育。今回紹介した、新しいテレビ会議システムの開発と評価研究のほか、VR(virtual reality:仮想現実)を使った世界をつなぐ遠隔教育や、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やエデュテインメント(edutainment:education教育+entertainment娯楽)を活用した新しい教育方法の開発などにも取り組んでいる。

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