130th ANNIV. SPECIAL WEB MAGAZINE Advance! キャリア形成と自立志向を「ジブンゴト化」するウェブマガジン

vol.23

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

日本語教育についてどれぐらい知っていますか?

2019.05.17

日本語教育と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 留学生に対する日本語教育はイメージしやすいと思いますが、いま、日本では外国人労働者の受け入れ拡大の流れを受け、留学生以外の方たちに対する日本語教育の需要も増えているといいます。
 
こうした新たなニーズに伴い、日本語教育におけるさまざまな課題が浮き彫りにされつつあるのだとか。そこで、日本語学や日本語教育に詳しい共立女子大学国際学部の佐藤雄一教授に、日本が今後向き合っていくべき日本語教育の課題や需要について伺いました。
 
「外国人労働者は、単身だけでなく、日本語がわからないまま家族で移住してくるケースが多くあります。大人や留学生であれば日本語学校である程度基礎を習得してから労働を始めることができますが、子供の場合は日中、学校へ通うため、語学学校に通うことはできません。そこで、学校での日本語教育が求められているのです」
 
じつは、日本の小学校、中学校では外国人に対して日本語教育を行うことのできる教員の数が十分ではないのだそう。研修制度はあるものの、日本語教育に関する専門的な知識を持たない教員が、外国人に日本語を教えなければならない状況も発生しているとか。
 
「外国人が多く住む地域などでは専任の日本語指導員が在籍する学校もありますが、そうでない地域では、教員の配置も難しく、日本語指導を必要とする児童生徒全体のうち約2割が日本語指導を受けることができていません。その場合は、地域のボランティアや自治体が主催する地域国際交流室などが日本語を教えているという状況です」
 
そもそも、日本では日本語教師の数が大幅に不足しています。日本語学習者は2010年から42%増えている一方、日本語教師数は19%増(2010年度から2017年度までの推移)。つまり外国人が増えているのに、それに対応すべき日本語教員の数は不足している状態なのです。

▲2010年から2017年までに、日本語学習者は43%増えているが、日本語教師数は18%しか増えていない(「平成29年 国内の日本教育の概要」を基に作成)
▲日本語教育の現場では、ボランティアが約6割を担っている(「平成29年 国内の日本教育の概要」を基に作成)


「常勤講師として日本語教育に関わっている人は少なく、非常勤が3割、後はほとんどがボランティアです。こうした状況は日本語教育における大きな課題となっており、日本社会の発展のためにも外国人労働者の語学力をサポートしてくことが重要なのです。給与面の待遇改善など、日本語教師が働きやすい環境づくりや外国人が学びやすい環境づくりも早急に求められています」
 
また、専門知識を十分に持たない教員が日本語を教えている状況も問題、と佐藤教授。言語習得の際、母語と学習言語の系統が近いと学習しやすいものの、かけ離れている言語もあり、状況に応じた語学教育が必要だそう。
 
「漢字の学習は文字の習得ではなく語彙の習得と関連させなければなりませんし、文法も学習者の母語と日本語の文法をリンクさせながら、適切に教えていく必要があります。そうした配慮が欠けていると習得に時間がかかり、きちんと理解できないまま時を重ねてしまう可能性も」
 
こうしたさまざまな課題を解決すべく、2019年の通常国会では日本語教育推進基本法案が提出される予定。この法案には、日本で生活する外国人への支援や日本語教育の水準を高めるための条項が盛り込まれています。

▲共立女子大学の外国人留学生の語学サポートを行う日本語チューターの様子


「本学では日本語教師養成課程を設けており、より実戦的に日本語を教えるための知識を伝えています。そうしたなかで見えてきたのが、学校で行われる国語教育の改善点です。国語の授業で覚えた文法は、日本語の古典文法を学ぶための準備としては役に立ちますが、外国語学習や外国語教育に役立つような、日本語をひとつの言語としてとらえた視点からの文法ではありません」
 
私たちは日本語の読み書きが自然にできても、文法そのものを意識することは少ないですよね。だからこそ、母語としての日本語を客観的に捉え直してみる必要があるのです。
 
「日本人が英語を学ぶ際には、母語の文法や単語を比較しながら学ぶことが理想ですし、日本人が日本語教師として外国人に外国語を教える際にも、日本語の文法をしっかり理解していなければ、実りある教育は難しいでしょう」
 
日本語教師になる、ならないに関わらず、「日本語」そのものをしっかり学ぶ必要があるのですね。
 
日本語教師として海外での経験を積みたい学生さんには、国際交流基金による日本語指導助手の派遣(※1)やJICA青年海外協力隊による派遣(※2)などへの参加も進めている、と佐藤教授。
 
「日本語教師の就職先もさまざまで、本学の日本語教師養成課程を修了後、日本語学校の教員になった卒業生や、教職を取得して日本語指導の担当になった卒業生、大学院へ進学して海外の大学で日本語を教えている卒業生もいます。卒業後すぐに日本語教師にならなくても、今後のキャリアの中で選択肢のひとつとして考え、日本語教師養成課程を履修する学生もいます」
 
日本語教師の待遇が改善され、より魅力的な職業として認知されるように国や自治体の働きも期待したいところですね。
 
一方で、日本語教師だけでなく、社会で働く上でも今後多くの外国人と接していくことになるなかで、わかりやすい日本語を使ってほしいと佐藤教授は言います。
 
「NHKでもニュースを優しい日本語でウェブ上で流したりしていますが、定住外国人を対象とした調査では、英語よりも簡単な日本語のほうが理解しやすいという結果も出ていて、外国人に接する際にはわかりやすく伝えてほしいと思っています。これは外国人だけでなく、日本の高齢者と接する際にも言えること。同世代や周囲のコミュニティだけに伝わればいいという気持ちではなく、万人に伝わる言葉を使うことがコミュニケーションの基本だと思います」

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 国際学部長

佐藤雄一 教授

日本語学、日本語教育を研究。「日本語学概論」「日本語教育実習」「日本文化研究」などの講義を行う。

おすすめ連載

一覧を見る