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vol.17

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

運動不足は喫煙よりも体に悪い!?

2018.04.06

私たちの健康に欠かすことのできない運動。慢性的に不足するとさまざまな健康障害が出ることから、“運動不足は喫煙よりも体に悪い!”なんてフレーズも知られるようになりました。
 
では実際、人間の体に運動はどのような影響を及ぼしているのでしょうか。共立女子大学家政学部食物栄養学科で、公衆栄養学、運動疫学について教鞭をとられていた医学博士の川久保清学長に、運動の重要性や運動不足がもたらす健康障害について伺いました。
 
「私たちの祖先は大昔から走って獲物を狩ったり、移動のために歩いたり、つい最近まで掃除や洗濯といった家事を行うために1日中体を動かしていました。ところが文明の発達で世の中が便利になるにつれ、身体活動量は著しく減少し、身体活動量を確保するためにわざわざ体を動かす必要がでてきたのです」
 
ここでいう「身体活動」とは、朝起きてから寝るまでに行う日常生活での活動を指すのだそう。一方、「身体活動」の一部で、目的をもって体を動かす活動は「運動」と呼ばれています。
 
「目的によっても必要な運動量は変わってきますが、健康維持に必要な運動量は『健康づくりのための身体活動指針』(厚生労働省発表)によると、毎日60分間歩く程度とされています。運動であれば負荷が強くなるため、1回30分を週2回ほど行えばよいとされています」
 
日本の統計によると、こうした身体活動指針を満たしているのは、国民全体の2~3割程度で、なんと8割近くの人が運動不足の状態に陥っているのだとか。
 
「中学・高校時代までは部活や体育の授業で自然と体を動かしますが、とくに女性は卒業後、運動量が一気に減少する傾向があります。それでも細身の体型が好まれる時代ゆえ、食べる量を減らして若い頃は痩せ型を保っている人がほとんど」
 
しかし、若くて健康だから、痩せているから、といって運動しなくていいわけではありません。若い頃の運動不足は、なんと骨に悪影響を及ぼすといいます。
 
「運動による衝撃は、骨形成を行う際、カルシウムを沈着させるために必要な刺激となります。また、骨の強さは10代後半から20代前半で決まるため、若い頃に運動が不足すると骨密度が上がらず、50代や60代から骨粗鬆症の可能性が出てくる人も」
 
高齢者の要介護を引き起こす原因の第3位には、骨折があがる現代。骨粗鬆症になればちょっとの転倒で骨折を引き起こし、寝たきりになってしまう可能性さえあるのです。
 
また、運動習慣のない女性は若い頃に痩せ型でも、40代、50代と中年になるにつれて肥満の傾向が高まるのだとか…。
 
「中年の肥満原因について基礎代謝の低下を挙げる人も多いのですが、じつはほとんど関係がありません。基礎代謝量は、基礎代謝基準値×体重で導くため、体重に影響されます。基礎代謝基準値が落ちても体重が増えると、トータルの基礎代謝量はほとんど変わらないのです」
 
つまり、食べる量は変わらないのに、年々運動量だけが減るため体重が増えてしまうのです。また、女性は妊娠で体重が10キロ近く増加するため、運動習慣のない人は産後に体重が戻らず悩む人が多いのだとか。
 
「妊娠前は痩せ型だった女性も、出産後には肥満体型になってしまうケースがしばしば見られます。そうして痩せ方がわからないまま太り続ければ、年齢とともにさまざまな病気に見舞われることになります」
 
実際、肥満体型は糖尿病をはじめ、高血圧、心臓病、脳血管疾患などさまざまな病の原因になるといわれています。
 
「きちんと運動をすれば、これらの病を未然に防ぐだけでなく、免疫力の活性化やストレス解消、情緒の安定といった効果も期待できます。運動は、肉体面だけでなく、精神面でも私たちを元気にしてくれる必要不可欠な活動なのです」
 
一方で、科学は進化し、今以上に便利な世の中になれば、日々の身体活動量はさらに減っていくことが予想されます。だからこそ、意識して運動を取り入れていくことが重要になってくるのです。
 
「ジムやフィットネスに通うのもよいですが、時間や金銭面で難しい場合も多いでしょう。こうした状況を受け、人間の身体活動量を自然に増やせるような地方自治体による街づくりや企業活動などの計画も進められています」

▲じつは共立女子大学の事務室にも、立って会議をするためのデスクが用意されています!


実際、車が入れないようにして徒歩や自転車を使って移動する街づくりを計画している地方自治体や、立って会議をする企業なども出てきているそう。これからの世の中の動きに期待していきたいですね。

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学・共立女子短期大学 学長

川久保 清

医学博士。公衆栄養学、運動疫学を研究。共立女子大学 家政学部 食物栄養学科で、応用健康科学、スポーツ科学、生活科学一般、公衆衛生学・衛生学などについても教えている。

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