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vol.10

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

大先輩! フランスの実情から、移民・難民問題を学ぼう

2017.08.28

学生の皆さんは、世界中で増え続ける移民・難民の問題について、どれだけ知っていますか?
 
難民とは、「簡単に言えば紛争・災害によって本来の居住地を離れざるを得なくなった人々のこと」(※)と定義される人たちのこと。近年、難民の数はシリアやアフガニスタンを筆頭に増え続け、深刻な迫害、紛争の問題を抱える中東、アフリカなどの人々が安住の地を求めて国外へ逃れたりしています。
 
とくに、人道支援を掲げるEU(28カ国が加盟する欧州連合)域内には毎年多くの難民が押し寄せ、受け入れ国はかなりの負担を受け入れているのだとか。
 
また、第2次世界大戦後の経済成長期には、よりよい仕事を求めて旧植民地からヨーロッパへ移住する移民が少なくなく、フランスにもアフリカの旧仏植民地から多く移民が移り住んできました。
 
今後、日本も直面することが予想される、移民・難民問題。どのような心構えで向き合っていけばいいのでしょうか。EU加盟国のなかでも、以前から多くの移民・難民を受け入れてきた、大先輩ともいえるフランスの実情を知るべく、フランスの社会問題に詳しい、共立女子大学国際学部国際学科の辻山ゆき子准教授にお話を伺いました。
 
「フランスでは、今年(2017年)の5月にフランス史上最年少となる39歳のエマニュエル・マクロンが大統領に就任し、話題を集めました。今回の選挙でマクロンはグローバリゼーションを軸に“EU推進”を表明し、移民・難民の受け入れも継続する方針を示していました。しかし、その対抗馬となった極右といわれる国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は、“EU離脱”を掲げ、移民・難民の新たな受け入れを停止するべきだと主張していたのです」
 
真逆とも言える政策を打ち出した2人の勝負は、国内外から大きな関心を集めました。結果的にマクロンが勝利しましたが、フランス国民や政府は実際、移民・難民問題についてどう考えているのでしょうか。
 
「ルペンのような候補者の存在は、フランスにも移民・難民を快く思わない人たちが一定数いることを示しています。しかし、一般的なフランス人の考えとして、自由を求めてフランスにやってきた外国人に対しては、寛容であるべき、という共通理念が浸透しているのです」
 
いったいなぜ、フランス人にはこのような精神が根付いているのでしょうか。
 
「現代のフランスの政治体制は、1789年に始まるフランス革命にさかのぼります。第2次世界大戦中のヴィシー政権の時代を除けば、第三共和制(1870年)以降、フランスはずっと自由・平等・友愛、政教分離という共和主義を掲げてきました。これは、生まれながらの自由を認め、人種や宗教の違いなどによる差別をせず、市民がともに助け合っていくという精神です」
 
公的な場に宗教を持ち込まないという政教分離を守ることも、フランス人としてとっても大切な条件なのです。これもやはり過去の歴史が関係しているのだとか。
 
「フランスは、聖職者や貴族に抑圧されていたフランス国民が、自らの権利と自由を得るために革命を起こし、共和主義の国家を作り上げてできた国。こうした国のなりたちによる意識が強く刻まれているため、フランス人の国民意識は、この自由・平等・友愛、政教分離が拠り所になっているのです」
 
こうした背景があるから、自由を求めてやってきた難民は同胞であり、助けるべき存在と考えるようになったのですね。実際、フランス憲法にも“自由のための行動により、迫害を受けた者はすべてフランス共和国の領土において庇護を受ける権利がある”と明記されています。
 
「こうした寛容な考えと、排斥感情が同居しているのがフランスの実情といえます。年間何万人もの難民を受けて入れていることはフランス政府にとって経済的・社会的に大きな負担であるし、なによりフランスの旧植民地であった国からの移民も多く存在するため、差別意識がなかなかぬぐえないという現状もあります」
 
しかし、たとえ外国人に対して排斥感情が芽生えても、差別的な態度はフランス人の根幹をなす自由・平等・友愛の精神を否定することとなり、フランス市民として態度に出しにくいのだとか。
 
長いあいだ、周囲の国々と切磋琢磨しながらいまの価値観を得て、フランスは移民・難民問題に正面から向き合っているといえるでしょう。
 
「難民条約を批准しているにも関わらず、いまの日本の難民受け入れはわずかです。しかし、国際社会のなかで難民受け入れの負担をもっと求められるようになるかもしれません。また、少子高齢化で人口減少の一途をたどる日本では、将来的に国外から労働力を受け入れる必要性が予測されています。もし日本が移民・難民を本格的に受け入れる日が来るとすれば、排斥感情や差別意識を抱かせないような配慮と社会的システムの導入が必要になってくるでしょう」
 
まずは政府の政策を整えることが最重要課題ですが、私たちも移民・難民の受け入れに対し、少しでも心構えを持っておいたほうがよさそう。学生として講義や読書を通じて学ぶ一方で、様々な国からの留学生との出会いなど、外国人との生身の対等な付き合いをすることで、卒業後にきっと役立つことでしょう。
 
※ 外務省ウェブサイトより

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 国際学部 国際学科

辻山ゆき子 准教授

フランスの地域研究を主軸に、社会学を教える。研究内容は、エスニシティ、差別問題、社会運動、性、世代、階級、階層、社会移動など。

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