さて、華岡の名が今日広く知られているのは、紀州(和歌山県)出身という点で華岡と共通点を持つ作家、有吉佐和子による小説『華岡青洲の妻』が人気を博した為である(9(。同作は映画化、TVドラマ化、舞台化され、これらの作品においては妻の献身的態度を焦点化した美談の側面が強調されている。有吉作品以前には、医学関係者を除いて、全国的に華岡の名が知られていたわけではない。さて、『ドグラ・マグラ』のムードを形成している朦朧とした意識からの覚醒、あるいは覚醒から朦朧への沈下といった描写も、華岡青洲の用いた麻酔薬の効能に共通している。こうした点も踏まえながら、具体的に『華岡青洲先生及其外科』の内容を確認していきたい。同書は東西の麻酔薬史に関して、次のように整理している。薬物トシテ多ク此目的(――引用者注。麻酔のこと)ニ使用サレタルハ印度大麻 Cannabis indica・茛菪類 Atropa mandragora L. oder Mandragora officinalis.Mill.ナリ。印度大麻ハ古クペルシャ支那ニ用ヒラレ。支那紀元後三世紀ニテハ Hao-Tho 華佗ガ用ヒタルMa-yo 麻薬ハ是ナリト云フ。西洋ニ於テハまんどらごらヲ用ヒシコトデヲスコリデス時代ヨリ之レアリ。十二三世紀ニ用ヒラレ、十六世紀頃ニモ煎剤トシ又吸入剤トシテ冥朦ヲ起スニ供セラレタレドモ。古代ニ於テハ勿論ノコト、中世ニ於テモ之ヲ使用スレバ其為死亡スルモノ多キガ故ニ、余リ多ク外療ニ応用セラレズ。其後ハ遂ニ全ク忘却セラレ居タリ。サレバ青洲先生ノ時代ニハまんどらごぅらハ既ニ世ニ跡ヲ絶チ、え〻てる・くろゝふぉるむハ未ダ人ニ知ラレザリシナリ。W.B.Müller, Narkologie. (908. Gurlt, Geschichteder Chirurgie. (898.((1(ここで注目しておきたいのは、「西洋ニ於テハまんどらごらヲ用ヒシコトデヲスコリデス時代ヨリ之レアリ。十二三世紀ニ用ヒラレ、十六世紀頃ニモ煎剤トシ又吸入剤トシテ冥朦ヲ起スニ供セラレタ」の部分である。マンドラ((自由テーマ・画狂人とマッド・サイエンティスト
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