ている。この空隙に華岡青洲の「青」を入れれば「呉青秀」の完成となる。こじつけが過ぎるかも知れないが、可能性の一つとして指摘しておく。『ドグラ・マグラ』に登場する二人の医師は、マッド・サイエンティストと言い切ってしまってよい存在である。その内の一人である若林博士は、呉一郎の従妹、呉モヨ子に扮した死体を創り出す為、仮死状態の“生ける屍”と化している呉モヨ子に、さらに麻酔薬を嗅がせて、深い昏睡状態に陥らせる。若林はその一方で、モヨ子と同世代の、外傷で醜く変貌した少女の屍体を切り刻んで加工すると、モヨ子に擬した身代わりを造り出すのである。 大正十五年四月二十七日夜よの、九大法医学部、解剖室には、かくして二個の少女の肉体が並べられた事になります。美しく蘇よみがへりかけてゐる少女と、醜くゝ強きゃうちゃく直してゐる少女と……中にも解剖台上に紅べに友いう禅ぜんを引きはえました少女の肉体は、ほんの暫しばらくの間あひだに著しく血色を回復して居をりまして、麻酔をかけられたまゝに細ほそぼそ々と呼吸しはじめて居ゐる、そのふくよかな胸の高低が見える位になって居をります。その異常な平和さ、なまめかしさ……台の下の醜い少女の顔と相対照して居をりますせゐか、その美しさは一層美しく、ほとんど気味の悪いくらゐ、あでやかに感じられる様であります。(二四六頁)美しい屍体(仮死状態になった呉モヨ子)と、醜い屍体(モヨ子の身代わりにさせられる、外傷だらけの醜い姿になってしまった少女)とが対照的に扱われているのは、言うまでもなく、呉青秀によって描かれた次第に腐りゆく死美人の絵巻を想起させる為である(8(。ひとつの疑問は、呉モヨ子が仮死状態にあることが明示されているにも関わらず、さらに麻酔薬を嗅がせるという、ある意味で蛇足にも見える行為が重ねられていることである。逆に言えば、ここにこそ、華岡青洲という、『ドグラ・マグラ』のひとつのルーツの残滓が認められるのである。(2文學藝術 第47号(2025)
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