自由テーマ画狂人とマッド・サイエンティスト―― 夢野久作『ドグラ・マグラ』における「呉青秀」と華岡青洲 ――今 井 秀 和一 『ドグラ・マグラ』の絵師と医師日本の近代文学には時折、「麻酔」を扱った小説が見受けられる。たとえば、医師の親友である画師の語りで構成された物語、泉鏡花『外科室』(一八九五年『文芸倶楽部』初出)。この小説では、手術を前にした貴船伯爵夫人が、麻酔の効果によって自身が心中密かに思っている人について吐露してしまうことを恐れている。また、森鷗外『雁』(一九一一―一九一三、『スバル』初出)では、医師が既婚女性に麻酔をかけて性的暴行を加えており、麻酔や催眠術に対して強い忌避感を示していた鷗外の妻を襲った実際の事件をもとにしたものと考えられている。 本稿では、夢野久作『ドグラ・マグラ』もまた、麻酔をテーマのひとつに据えた作品であったことを指摘する。とくに、麻酔による意識の混濁や酩酊感を表現しようとしていた可能性を問いたい。『ドグラ・マグラ』は、福岡県出身の作家、夢野久作(一八八九―一九三六)による長編探偵小説(推理小説)である(((。『ドグラ・マグラ』は、久作が没する前年に出版されたが、その複雑さもあって、生前の評価は必ずしも高くなかった。27自由テーマ・画狂人とマッド・サイエンティスト
元のページ ../index.html#35