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文芸学部取り組み・プロジェクト紹介

更新日:2016年04月10日

美術史専修

受験生へのメッセージ(山本 聡美)

日本美術史から、生と死を考える
中世仏教絵画史、六道絵、九相図、絵巻

 

私の研究

 美術の歴史を通じて、それを生み出した社会や人間そのものについて探索するのが、美術史という学問分野です。私が取り組むのは、日本の中世絵画史で、中でも仏教絵画の研究を続けてきました。特に、地獄や死に関する表現を中心に考察しています。なぜ、美しい仏菩薩の世界でなく、恐ろしく、時に不浄ですらある世界の表象に目が向くのかというと、そこに描かれたイメージこそが、かつての日本人にとって信仰や救済、そして希望の入り口であったと考えているからです。想像してみてください、古代・中世の日本で、人々は病や飢え、天災や戦乱など生命への脅威と背中合わせに生きていました。この世に生きていられることが、当たり前のことではなかったのです。

 そうであるからこそ、人の世の喜びや悲しみそのものを題材とした、漢詩や和歌や物語などの文学、能や狂言などの芸能がかつての日本人の精神を潤していました。そこで表現されるのは必ずしも美しいものばかりではありません。怒り、恨み、嫉妬、悔恨、怖れ、そして死といった負の要素を滋養として花開く芸術もあったのです。絵画も同じです。生命の危うさや人間という存在の弱さを自覚し、可視化するための絵画が存在していました。私は、そのような芸術に心から感動します。

 

大学で美術史を学ぶために

 大学で美術史を学ぶために今やっておいて欲しいことは、古今の文学作品を幅広く読むこと、日本史や世界史に関心を持つこと、展覧会に足を運んで優れた芸術に触れておくこと、様々ありますが、何よりも自分自身の心を大切に育成しておいてください。精神の自由や豊かさの獲得は、自分以外の誰も手助けできない、真に個人的な作業です。現在を生きる自分の心の喜びや悲しみにきちんと向き合うことができれば、過去の人類が絵画や彫刻などの造形に込めた思想に正しく感応することができるはずです。またそこで獲得されるであろう人間存在に対する深い理解は、現在を共に生きる他者への共感となって、私たちの社会を豊かなものに導いてくれます。

 

共立女子大学での学び

 私が所属する造形芸術コースでは、絵画・彫刻制作と美術史学を両軸としたカリキュラムを実施しています。絵画や彫刻の技法を知ることで、過去の作品についても理解が深まります。逆に、美術史を踏まえて自身の作品制作に取り組むことで、現代社会におけるアートの役割を歴史的視点から相対的に位置づけることができるはずです。4年次には卒業論文か卒業制作を選択し、さらに専門性を絞り込むことになりますが、そこに至るまでの過程では両方を同じ比重で学びます。

 このような、造形芸術コースのカリキュラムは全国的に見てもユニークで、共立で美術を学ぶ大きなメリットといえます。そして、都心の神保町にアトリエを構えながら、時間が空けば、徒歩圏内の東京国立近代美術館や三の丸尚蔵館、地下鉄で10分圏内の出光美術館や三菱一号館美術館や東京ステーションギャラリー、そして銀座の画廊街など、世界有数のアートスポットに出かけることができます。この環境こそが、共立で美術史や美術制作を学ぶ学生に、私たちが提供できる最高のものです。つまり、立地を最大限に生かして、自ら主体的に芸術に触れその歴史について考察できる能力を備えた人にとって、ここは最高の学び舎になるものと信じています。

 

受験生の皆さんへ

 今、目の前の受験という課題に取り組んでいる間は、勉強を楽しいとはなかなか思えないかもしれません。けれど後で振り返ったときに、受験のための科目群は、国語、数学、外国語、地理・歴史、理科・・・・・いずれも生きるために不可欠な知識なのだと分かります。最終的に受験生として達成できる点数が、それぞれの能力に応じたものになることは必然ですが、精一杯取り組むことが何より大切です。後で取り戻すことのできない、大切な学びの時間を過ごしていることを心に刻んでがんばって欲しいと思います。

 ところで、ここに掲げた受験科目には「美術史」が入っていません。大学に入ってはじめて触れる専門領域であるからなのですが、実は全ての科目が総合的に関わってくる分野でもあります。古典文学の知識がなければ「源氏物語絵巻」の世界を理解することはできませんし、地理・歴史を理解しないまま、美術の歴史だけを追うことは無意味です。文化財の保存や修復には、化学や生物学の知識が不可欠です。美術史に関する文献には、外国語で書かれたものが膨大な数含まれています。もちろん、非力な私たちが、レオナルド・ダ・ヴィンチさながらの万能人になれるわけはないのですが、世界に対する広い関心を持ち続けることが肝要です。

 文学や芸術、そしてそれを生み出してきた人間の営みそのものを愛する心を持った方の入学を、心からお待ちしております。


『国宝 六道絵』
(泉武夫・加須屋誠・山本聡美、
中央公論美術出版、2007年)

『九相図資料集成
 死体の美術と文学』
(山本聡美・西山美香、
岩田書院、2009年)

『九相図をよむ
 朽ちてゆく死体の美術史』
(山本聡美、
KADOKAWA、2015年)

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