更新日:2016年04月10日
美術史専修
受験生へのメッセージ(水谷 靖)
受験生の皆さん、文芸学部造形芸術コースにて「彫刻」を担当しています水谷です。
当コースでは、美術理論と制作実習を併行して学び、「美術」をより広い視野から捉え理解することに力を入れています。それぞれの研究者としてのプロになり活躍することも、美術科教員免許や学芸員の資格を取得し活動することも可能です。現状では、作品と鑑賞者または作家と作品の間に立ち仲介してくれる人材の少なさを痛感しています。その間を取り持つ人材の育成にも力を注ぎたいと思っています。
私は、彫刻演習Ⅱ・彫刻演習Ⅲ・美術科教育の理論と方法・工芸実習(木工)・卒制ゼミを担当しています。「彫刻」と言うと特殊な能力がないと出来ないように思われるかも知れませんが、決してその様なことはありません。初歩から指導します。ものの見方・捉え方が大きく変わると思います。
さて、私の研究ですが、現在では能面の制作をとおし日本人の造形感を模索しています。能面は能楽の道具であり、能楽自体は室町時代に大和猿楽の観阿弥・世阿弥父子により大成されたものでしたが、その造形の歴史は日本文化の始まりから続いて来た伝統を基に形成されています。当時、私の進んだ東京藝大の彫刻科ではイタリア彫刻を学んだ教授陣が大勢を占めていて、絵画はフランス、彫刻はイタリアという風潮があり、イタリアの現代彫刻には最先端の芸術であると惚れ惚れとしている時代でした。しかし、ふと我を振り返ると、「私は、日本人だ。」という思いが常に心の底にあることを感じ、日本の美術を振り返ることにしてみました。日本の彫刻は運慶・快慶を代表とする鎌倉彫刻の素晴らしさがありましたが、その後姿を消しています。それは鎌倉時代に大陸から入ってきた仏像を崇拝するのではなく壁に向かって座禅をする「禅宗」により、鎌倉仏師達が職を奪われてしまったとのことです。鎌倉時代より後になりますが西欧の中世ルネッサンスは、イタリア・フランスで起こりドイツ・スペインに伝わりさらに北欧にも伝承しています。日本でも「日本のルネッサンス」と評された鎌倉時代の文化がどこかに伝わっているにではないか探って見たところ、能面にあったのです。詳細につきましては、またの機会にしましょう。
能面を打ち初めて18年経ちました。10年過ぎた頃から、どの角度から見てもさまになる作品が打てるようになり、日本文化の根底に有るものの見方・考え方が見えてきました。例えば、「個性」の考え方一つをとってみても西欧との違いが見えてきます。漢字の国ですので日本は東洋と考えてよいでしょう。東洋では「個性を磨く」とか「自分を律する」という言葉をよく耳にします。能面では「自分を殺せ」とまで言われます。しかし、西欧では「自分に足す」ことを要求してきます。ラテン語の「ペルソナ(persona)」は「仮面」と訳され「個人(personal)」の語源になっています。仮面を被ることも個性の一つであるといいます。日本では逆に「自分を隠す」意味になります。フランスやイタリアの美術大学に海外留学した友人達からよく耳にしますが、日本人留学生は基礎的能力やデッサン力はあるので飛び級で大学2年生から入学するそうです。得意気に同じことをしていると教授から「もうそれはいいから、あなたを出しなさい。」と言われ、そこで皆さんパニックに陥るようです。これは日本と西欧の教育的価値観にギャップがあるからです。そこできっかけを掴める留学生はいいのですが、掴めないと意気消沈して帰国してしまうそうです。西欧の考え方が良いのか日本の考え方が良いのかは、皆さんにお任せします。ただ、その様な考え方から今の「日本」が在ることをお忘れなく。
技術は最初から無くても良いのです。過去の有名な彫刻家でも不器用な人程大成しています。器用な人程別な道に進んでしまうことは否めません。必要なものは興味と探究心だけで十分です。何しろ創作中にワクワクしてこないものに決して満足のいくものは顕われません。技術は後から着いてきますから興味のあるものを発掘してみてください。
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