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文芸学部取り組み・プロジェクト紹介

更新日:2016年04月10日

英語・英語圏文学専修

受験生へのメッセージ(杉村 使乃)

受験生へのメッセージ

 19世紀イギリス小説を中心にイギリス文学・文化について研究してきました。また「戦争とメディア」というテーマで歴史やジェンダー論の研究者たちと共同研究に取り組み、第二次世界大戦時における雑誌などの大衆メディアを取り上げ、国際比較を行ってきました。
 授業では主に英米児童文学を取り上げ、児童文学概論、英米文学小説講読、英米文学各論、そして新入生向けの演習、基礎ゼミナール、文芸ゼミナールなどを担当しています。

 

1 児童文学再訪

 あなたはこれまでどのような物語に親しんできたでしょうか。小学館の『少年少女世界の名作文学』を小、中学校の頃、ベッドにこもって読んでいたのが、私の現在に続く大きな読書体験でした。子どもの文学との再会は、自分の子どもが小さい頃、飽きるほど同じ絵本を読み聞かせたり、居眠りしながら子どもと一緒にディズニーなどのビデオ(まだDVDではありませんでした!)を見たりしていた時です。「大人の本が読みたい。ニュースを見たい」、「眠い、早く寝てくれ」とぼやきながらも、知っていたはずの物語が「大人」の目には新鮮に映り、おもしろい発見があったことも事実です。
 「シンデレラ」、「不思議の国のアリス」、「ピーター・パン」、「くまのプーさん」などはディズニーでもお馴染みです。これらの原作を読んだことがある人も、実は読んだことはなかった人も、大学での児童文学研究は、少し「大人」になったあなたがこれまで出会った物語に再び出会う場でもあります。

 

2.大人/子どもの境界線

 「児童文学」というと、「大学生が子どもの文学?」と考える人もいるかもしれません。一方、「あなたは大人ですか?」と聞かれたら、自信を持ってYes! と答える人は多くはないのでしょうか。
 児童文学を考えるとき、「大人/子ども」の境界線は大きなテーマになります。歴史学者のフィリップ・アリエスは中世ヨーロッパでは、子どもは「小さな大人」として、労働や娯楽を大人と共有していたことを明らかにしています。いつ頃から、「大人/子ども」の区分が始まったのか、時代や文化によって「子ども」はどう位置づけられてきたのか、そして「子ども」の文学や文化にどう反映されてきたのか、こうした問題も重要な研究テーマになります。
 老若男女がディズニー・ランドに夢中になり、電車では子どもだけでなく、スーツ姿のビジネスパーソンもゲームに夢中になっているのを見ると、むしろ現代日本では、かつて「子ども」の文化として位置づけられていたものが「大人」にも勢力を拡大していると考えられるかもしれません。一方、世界に目を向ければ、多くの場所で、子どもたちが「子ども」としての生活や権利を保証されていない場所もたくさんあります。
 「子ども」を対象とした文学や文化を生産するのは大人たちです。児童文学研究は、「大人」が社会においてどのように「子ども」を位置づけてきたのか、歴史とメディアを考える研究分野でもあるのです。

 

3.文学から英語にアプローチ

 数ある言語の中で英語だけが特別視される現状の問題点はありますが、しかしながら、英語ができることによって得られるアドバンテージは否定できません。
 授業では英米の作品は原書を使って読んでいます。実践的な英語運用能力の獲得が叫ばれる中、文学作品よりも会話やコミュニケーション、TOEICやTOEFLEのスコアアップが重視されています。もちろん、これらの試験を使って、定期的に自分の英語力を測ることは強くおすすめします。一方、例えばTOEICの問題に出てくるようなビジネス・レターが示す文脈を想像するのが難しく、無味乾燥に感じることもあるかもしれません。会話や描写、手紙文など様々なコミュニケーションの形が表れる文学作品は、実際に使いたくなる語や表現に溢れています。特に「絵も会話もある」(“with pictures and conversations”)英米の児童文学は楽しく読めるだけでなく、出てくる語彙も文法も大学生には必須事項ばかりです。

 

4.こんな時代にわざわざ大学に足を運び学ぶ理由

 そもそも、小説など文学作品は、個人で読んでも十分、おもしろいものです。ましてや手元のスマホがあらゆる疑問にも答えてくれる現在、わざわざ大学に足を運び、クラスで文学作品を読むことの意味とは何でしょう。
 ひとつには、1人では出会わなかったかもしれないものとの出会いがあげられるでしょう。他の作品や文学の歴史を知ることによって、自分の好きなものを大きな流れの中に位置づけてみると、新しい発見があります。また、大学では講義や演習活動を通じて、問題発見、リサーチ、プレゼンテーションのプロセスを繰り返し、体験します。これは文学研究に限らず、一生、さまざまな分野に使えるスキルです。そして、リアルでソーシャルな大学の空間を生かし、五感を使って、文学と英語を楽しむため、音読、ロールプレイ、演劇的アクティビティやグループワークなどを授業に取り入れています。

 

Never-Ending Stories: あなたの物語を探す旅の始まり

 文学は文学から作られると言われます。『あしながおじさん』(Daddy-Long-Legs by Jean Webster, 1912)は奨学金制度の名前としてご存知の方も多いかもしれません。18年間孤児院で過ごしていたジルーシャ・アボット(Jerusha Abbot)は、「あしながおじさん」と彼女があだ名をつけた謎の紳士の援助により、女子大学へと進学します。そして彼女は、家庭や友だち、そして本に恵まれていた女の子たちが自然に吸収し、そして自分には欠けていたものに気づきます。

「マザー・グース」も「デビッド・コッパーフィルド」も「アイバンホー」も「シンデレラ」「青ひげ」「ロビンソン・クルーソー」「ジェーン・エア」も「ふしぎの国のアリス」も知らなければ…シャーロック・ホームズの名も聞いたことがなかったのでございます。(松本恵子訳)

 ヒロインがあしながおじさんに宛てた手紙で綴られる大学4年間の成長は、勉学や読書、そして他者との交わりによって、ヒロインが自分自身の物語を模索する旅の記録でもあります。
 また『海辺の王国』(The Kingdom by the Sea by Robert Westall, 1990)では、第二次世界大戦時のイギリスで、激しい空襲で家族を失った少年ハリーが放浪の旅に出ます。旅の途中、無人の小屋で見つけた本が『天路歴程』(Pilgrim’s Progress by John Bunyan)でした。背中に重い荷物を背負って、ある書物を片手に天上の国を目指して巡礼の旅に出る主人公に、ハリーも自分をなぞらえます。文学作品の中には、物語を知ることによって、自分の物語を語るキャラクターが少なくありません。
 文芸学部の学びであなたも自分の物語を探す旅に出ませんか。


Imperial War Museum
ロンドンにある帝国戦争博物館(Imperial War Museum)。戦争とメディアを考える共同研究のため、資料収集に通いました。

Christ Church
『不思議の国のアリス』の作者、ルイス・キャロルが過ごしたオックスフォード、クライスト・チャーチ・コレッジ

Fender at Christ Church
クライスト・チャーチのホールにある暖炉。首の長い人間を模した炉格子。首の長いアリスのアイデアはここから?

Tinker Bell
『マイ・フェア・レディ』(原作はバーナード・ショーの『ピグマリオン』)の舞台となったコヴェント・ガーデンで見つけたピクシー。等身大のティンカー・ベル?