大学入試のための 政治・経済
  日本の公害問題
    TERUO MATSUBARA 

 

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 ――― 公害と環境問題のちがい

 公害とは、特定の範囲で発生し、被害者と加害者が特定できるものをいう。 それに対して、環境問題は範囲が
広範で、被害者と加害者が特定できないものをいう。

 

 日本の公害の原点は、足尾銅山鉱毒事件である。 栃木県出身の代議士・田中正造は、この問題を追求し続
け、1901年には天皇への直訴まで行った。
  公害の分類
   @ 産業公害 ――― 企業の生産活動に起因するもの
   A 都市公害 ――― 都市への人口集中に起因するもの
      ( 例 ) 自動車の排気ガスによる大気汚染・光化学スモッグ、騒音・振動、日照問題、ゴミ問題
   B 政治公害 ――― 基地周辺の騒音、薬品・食品の安全監視の怠慢

 

 公害が全国的な規模で深刻化したのは、戦後の高度経済成長
期である。
 1960年代後半には、水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・
四日市ぜんそくといった四大公害訴訟が提訴された。 
 これらの裁判では、加害企業の社会的責任が問われ、すべて
の裁判で原告だった被害者側が全面勝訴している。
 四大公害裁判は被害救済の原則 ――― すなわち、救済は被
害者の原状を回復することが第1で、金銭的補償はあくまでも次
善の手段でなければならないという原則を確立した。

   水俣病

    原因は、チッソ水俣工場でビニールなどの原料となるアセトアルデヒドを作る時にできるメチル水銀
   毒性が強く、長期間にわたり、工場廃水といっしょに水俣湾に流された。
    海に流されたメチル水銀は、魚介類に取り込まれ、汚染されていることを知らずに人間が食べると、長
   い間にメチル水銀が人体にたまり、病気を引き起こした。 脳や神経がおかされ、手足のしびれやふるえ、
   見える範囲が狭くなって動きがぎこちなくなるなどの中毒症状を起こした。
 
     1968年 ――― 政府は、水俣病と認定する。 ( この年、チッソはアセトアルデヒドの生産を中止 ) 
          ※ 2265人が水俣病と認定される( 2006年現在 ) 
     1973年 ――― 水俣病第一次訴訟で、患者側が勝訴する。 ( 患者とチッソが補償協定を結ぶ ) 
     2004年 ――― 最高裁は、国と熊本県にも責任があることを認める。

 

 

   公害行政

【環境政策の展開】

  公害は、ある経済主体が市場を通さずに、他の経済主体に悪影響を与える外部不経済の典型である。 公害
を発生させた企業や家計が公害防止費用を私的費用として負担しないと、社会全体が負担せざるをえない社会
的費用がどんどん増大してしまう。
 政府の公害対策は、高度経済成長期になって本格化する。
   1958年 ――― 水質二法( 水質保全法・工場排水等規制法 )を制定する。
     ▽ 本州製紙江戸川工場事件( 浦安の漁民と警察隊が衝突 )に衝撃を受けて政府が制定した。

 

   1967年 ――― 公害対策基本法を制定する。
     ▽ 生活環境の保全を目的に、国・自治体の責任、地域ごとの環境基準の必要性を明確にし、汚染者
      負担の原則を定めた。
 公害対策基本法には、産業界の要請を受けて 「 生活環境の保全については、経済の健全な発展との調和を
図られるようにする 」 という妥協的な調和条項( 第1条2項 )が入ってる。
   1968年 ――― 大気汚染防止法が制定される。
 1970年の公害国会では、@公害対策基本法から調和条項 経済の健全な発展との調和が図られるように
する 』を削除して、環境保全を最優先とする姿勢を打ち出し、A大気汚染防止法の改正や水質汚濁防止法の
制定など、公害対策14法を整備した。
   1971年 ――― 環境庁が発足する。
       ( 2001年・省庁再編成では、環境行政強化のため環境省へ格上げ )
 公害防止条例を制定する地方公共団体も増大した。

 

   1993年 ――― 公害対策基本法に代わり( 廃止となる )、環境基本法が成立する。
     ( 新しい法律が必要になった理由 )
         従来の産業公害に対してだけでなく、地球規模の環境問題や都市型・生活型公害など、新たな
       環境保全の施策が必要となったから    ★ 地球サミットをきっかけに制定された
    ( 内容 )  「 持続的な発展が可能な社会 」 の構築をめざす。
          地球温暖化など地球規模での環境問題に対処するため、大量消費・大量廃棄の経済システム
         を見直し、自動車の排気ガスのような生活型公害への対策を進めることを目的にしている。
       ▽ 第2条では 「 ・・・ 人の活動に伴って生じる相当の範囲にわたる大気汚染、水質の汚濁、土壌
        の汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生ずる
        ことをいう 」 として、典型7公害を定めている。
         ( 注意 )  公害対策基本法も環境基本法も、環境権は明記されていない。
 この法律に基づいて環境行政の基本方針である環境基本計画が策定された。 2000年12月に新計画が閣
議決定され、従来の規制的手法に加え、環境税・ゴミ処理有料化・デポジット制度などの経済的手法の採用を強
く打ち出している。
   1997年 ――― 大気汚染防止法が改正される。( 最初の制定は1968年 ) 
     ▽ ダイオキシンなどの有機塩素系化合物の抑制が目的。
   1997年 ――― 環境アセスメント法が成立する。 ( 1999年施行 ) 
    ( 内容 ) 環境破壊を未然に防ぐために、大規模な工事や開発の際には、事前に周囲への影響を調査・
        評価することを義務づけた。
     ▽ スウェーデンで発達し、1976年の川崎市をはじめとして、北海道・東京都・神奈川県などでは環境
      アセスメント条例が制定されていたが、国政レベルでも成立した。
     ▽ 1981年に一度国会に提出されたが、経済界などの反対で廃案になった経緯がある。

 

 

【公害対策においてのルール】

汚染者負担の原則( PPP )  = Polluter Pays Principle
   公害防止費用は汚染発生者が負担すべきであるという考え。 1972年にOECDの環境委員会で採択され
  た。
   公害防止事業費事業者負担法( 1970年制定 )や、公害健康被害補償法( 1973年制定 )でこの原則が
  採用されている。 
    1973年 ――― 公害健康被害補償法が制定される。
     ( 内容 )  被害救済の原則を定めた法律で、裁判を待たなくても被害者は療養費・障害補償費などの
           給付を受けることができると定められた。 汚染者負担の原則( PPP )が貫かれている。

 

無過失責任主義
   加害企業は、故意・過失がなくても企業活動と被害との間に因果関係があれば損害賠償責任を負う。
   本来、私人間の紛争は、過失責任主義に基づいて処理されるわけだが、無過失責任主義は、被害者救済
  の見地から、1972年に大気汚染防止法( 1968年 )や水質汚濁防止法( 1970年 )に導入された。

 

濃度規制から総量規制へ
   有害物質の濃度を規制する濃度規制では、濃度を薄めて排出すれば基準がパスできて汚染物質の総量
  は減らなかった。 そこで、1974年、排出される有害物質の総量を一定地域ごとに規制する総量規制が導
  入された。 
   大気汚染防止法や水質汚濁防止法などでは、企業ごとの濃度規制を原則としながら、工場や事業所が密
  集している地域では、汚染物質の総排出量をおさえることはできないので、特に認定された場合に各工場に
  汚染物質の許容排出量を割り当てる総量規制を行うことが定められている。

 


 

 GDP( 国内総生産 )には、環境汚染による国民生活の質の低下などが反映されていない。 そこで、 環境の
損失や環境悪化の防止費用などを考慮する指標の開発が求められていた。 グリーンGDPはその指標の一つ
で、国連は、1993年に環境・経済統合勘定の導入を勧告したが、日本ではまだ導入されていない。

   アメニティ

   市場価格だけでは評価できないものを含む生活環境のことで、自然・歴史的文化財・街並み・風景・
  地域文化・コミュニティの連帯・人情・公共サービス( 教育・医療・福祉・犯罪防止 )・交通の便利さなど 
  を内容としている。 こうしたもので、住みやすさや快適な居住環境をあらわそうという。

 

 

 

   環境を守るための条約・運動

【新しい公害】 

 公害対策の結果、公害はかなり減少した。 産業公害の他に、都市化の進展による都市公害が問題になって
いる。 合成洗剤による水の汚染、自動車の排気ガスによる大気汚染、騒音・振動などがそれだ。 
 また、最近ではダイオキシンによる土壌汚染や内分泌かく乱物質( 環境ホルモン )の人体への影響、さらに
ハイテク汚染・IT汚染も新しい公害として問題になっている。

   環境ホルモン

   環境中にあって、体の各器官の働きを調整するホルモンの作用を乱す化学物質。 微量でも影響を
  及ぼし、生殖異常によって世代を超えて影響が出るとされる。
   ダイオキシン、DDT、PCBが代表的なものである。

   ハイテク汚染

    ICや電子部品の製造過程で使用される化学物質により、周辺の土壌や地下水が汚染される。

   アスベスト

   建築資材に使われる鉱物繊維・アスベスト( 石綿 )を取り扱っていた企業の従業員に健康被害が出た。 
  数十年間、体内に蓄積し、発症するので 「静かな時限爆弾」と呼ばれている。 2004年から日本では 
  使用禁止になった。

   PM2.5

   PM=Particulate Matter ( 粒子状物質 )。 大気中に漂う粒子状物質の中で、大きさが2.5マイクロメー
  トル以下の微小のものをさす。 車の排気ガスや工場の煙、火山灰、精密機械の洗浄などに使う揮発性の
  化学物質が大気中で反応してできることもある。 
   PM2.5は花粉症や風邪用マスクでは防げず、鼻や気管でも止まらず、肺の奥まで入りこむ。 ぜんそく
  や肺がんを起こすといわれている。
   中国で大気汚染が深刻となり、日本にも飛んできている。 中国の大気汚染がひどい理由には、@工場か
  らの煙に含まれる硫黄分などの汚染物質を取り除く設備が十分ではない、A車の数が増え続けている、
  B硫黄の多い低品質のガソリンを使用している、C暖房の主役が石炭である、などがある。 中国では視
  界が悪くなって交通事故が相次いだり、のどや目の痛みで多くの人が病院にかけこんだりした。 日本で
  も、201 3年度、全国測定局の3割で基準を超えた。

 

   1999年 ――― ダイオキシン対策法が成立する。 ( 2000年施行 )

 

 

【ラムサール条約】

   1971年 … イランのラムサールで、ラムサール条約が結ばれる。
 ラムサール条約とは、水鳥にとって大切な湿地と、そこをすみかとする生き物を守っていく条約で、世界各地の
湿原・河川・湖沼・田・干潟・サンゴ礁・マングローブ林などが登録されている。
 ラムサール条約では、湖や干潟など自然のものだけでなく、水田や貯水池のように人間が作ったものまでを湿
地として守ることにしている。
 湿地には、魚や貝、それを食べに来る鳥、海藻などたくさんの生物が暮らしている。 また、渡り鳥にとって湿
地は旅の疲れをいやす場所であり、エサを食べる場所でもある。 渡り鳥は国から国へと旅をするから、いろん
な国が協力して湿地を守っていかなくてはいけない。
 ラムサール条約を守る約束をした国は 147ヵ国、登録された湿地の数は 1524ヵ所( 2005年11月 )であ
る 。 日本国内の登録湿地は33ヵ所あり、最初の登録地は釧路湿原だった。

 

 

 

【ナショナルトラスト運動】

 自然や文化財を開発から守るために、多くの人から寄付金を集め、土地を買い上げて所有者となることで、
美しい自然や景観を保存・管理する市民運動をナショナルトラストという。 1895年頃に、イギリスで行われた
活動をもとにしている。
    <例>  ・ 和歌山県の天神崎    ・ 埼玉県のトトロの森

 

 

【ワシントン条約】

   1973年 … アメリカのワシントンで、ワシントン条約が結ばれる。
  ( 内容 ) 絶滅のおそれがある野生動植物の国際取引に関する条約である。 

 

 規制には3ランクある。
 @ 付属書1のリストにある…商業取引は認めない。
     絶滅の危機がある種が対象で、国際的な商業取引を禁止している。 動物園や大学の研究などを目的
        とした場合は除かれるが、輸出国と輸入国双方の許可が必要。
       <例> トラ、ゾウ、ゴリラ、オランウータン、ジャイアントパンダ、ウミガメ、など。
 A 付属書2のリストにある…輸出国の許可があれば商業取引はできる。
     今は必ずしも絶滅の心配はないが、取り引きを規制しないと将来、絶滅のおそれがある種。
       <例> クマ、ライオン、カバ、サンゴ、サボテン、シクラメン、など。
 B 付属書3のリストにある…商業取引には輸出国の許可が必要。
     条約加盟国が自国の自国の動植物を保護するために、国際的な協力を求めている種。
       <例> セイウチ、ワニガメ、など

 

 ワシントン条約で規制されている動植物を海外から持ち込もうとすると税関でストップがかかる。生きた動物は
日本の細菌がついたおそれがあるので、持ち出された国に戻すのはむずかしく、多くは動物園や水族館などに
引き取られる。

 

 

【バーゼル条約】

 廃棄物は、工場などが事業活動にともなって出す汚泥や廃油などの産業廃棄物、家庭が出すゴミやし尿など
の一般廃棄物、原子力発電所からの放射性廃棄物に大別される。
 廃棄物は、リサイクルして再利用されるものを除き、焼却や破砕された後に埋め立てられる。
 産業廃棄物は、近郊にある最終処分場で処理しきれず、国の内外を問わずに越境移動されたり、不法投棄さ
れたりして問題になっている。
  1989年 … スイスのバーゼルで、国連環境計画( UNEP )の会議が開かれ、バーゼル条約が採択される。
    ( バーゼル条約とは? ) 水銀やカドミウムなどの有害廃棄物の輸出入を規制・管理し、発展途上国に
                 おける廃棄物の不適正な処分による環境汚染を未然に防ごうというもの。 
                  有害廃棄物の越境移動は、バーゼル条約によって規制されている。
  ※ ロンドン条約 ――― 海洋への廃棄物投棄を規制した条約。

 

 廃棄物の資源化のための産業連鎖を意図的に作り出すことを、ゼロ・エミッションという。 例えば、Aが排出す
る廃棄物をBの原料に、Bの排出する廃棄物をCの原料に ――― といったように、廃棄物の資源化を可能にす
る産業構造を新たに作り出し、廃棄物を無限にゼロに近づけることである。

 

 

【水俣条約…水銀規制】

 水銀汚染も問題になっている。発展途上国における小規模な金の採掘や、石炭などの化石燃料の燃焼によって
排出される。
 ガーナなど西アフリカや東南アジア、アマゾン川流域などの小規模金採掘の現場では、砂金を含んだ泥に水銀
を混ぜて作った合金を熱して、水銀だけを蒸発させて金を精製している。 労働者が水銀の蒸気を吸って中毒に
なる被害が出ている。
 また、石炭を燃やすと、含まれる微量の水銀が大気中に排出される。 中国やインドでは石炭火力発電所が
多く、広範囲の汚染が懸念されている。 水銀は気流や海流で拡散され、水中の微生物によって有機化され魚な
どに蓄積されて、水俣病のような被害を起こす恐れがある。
 水銀を規制するための国連環境計画( UNEP )が主催する外交会議が、2013年に140の国・地域が参加して
熊本県水俣市で開催された。
   2013年10月…水俣条約が採択される。
    ( 内容 ) ・ 水銀鉱山の開発を禁じ、今ある鉱山も閉山する。
          ・ 特定の製品や製造工程で水銀使用を禁止する。
          ・ 輸出入を制限し、適切な補完と廃棄処分を決める。
 50ヵ国が締結すると発効される。