1999年9月  東海村で起きた国内初の臨界事故  
                                        TERUO MATSUBARA

  

 事故は、ウラン燃料の加工作業の一部を担当している核燃料加工会社・JCOの工場で起きた。 濃縮度を
高めた粉末のウランを液体のウランに変えるという燃料用ウランを精製する作業中だった。 調べによると、
規定量の何倍ものウラン溶液を、タンク ( 沈殿槽 ) の中に手作業で入れたところ、突然、臨界反応が生じ、
放射能が外に漏れたという。

  

  臨界とは何か?  原子力発電は、ウランが核分裂する時のエネル
ギーを使うが、この核分裂が次々と続き、ものすごいエネルギーが出て、
高い熱を発生する状態をいう。  臨界は、本来、原子力発電所の中で
起こすことだが、今回の事故は、これが、工場内で起きてしまったのであ
る。
  → 右写真 防護服に身を固めた職員が、被ばくした作業員を放射線
   医学総合研究所へ搬送するところ

          症状の軽い作業員は体を支えられて歩いて入った ( 1999年10月1日付 朝日新聞 )

  

 この事故で作業員3人が被ばくして病院に運ばれた。
 事故発生後、半径10Kmに住む31万人に対して、屋内で待機する
よう命令が出て、翌日、夕方まで続いた。 この間、対象地域内の鉄
道など交通機関はストップした。 科学技術庁は、原子力施設事故の
国際評価尺度で 「 レベル4 」 という国内最悪の数値をつけた。
 
  ← 左写真  白い防護服とマスクをかぶって交通整理にあたる
          警察官 ( 1999年10月1日付 朝日新聞 ) 

  事故の深刻さを表す 「 国際評価尺度 」 

 レベル7   深刻な事故   1986年、チェルノブイリの事故
 レベル6  大事故  
 レベル5  施設外への危険を伴う事故   1979年、スリーマイル島の事故 
 レベル4  施設外への大きな危険を伴わない事故        今回の事故
 レベル3  重大な異常事象  1997年、動燃の東海事業所火災爆発 

 東海村は 「 原子力の村 」 

  茨城県の東海村には、原子力関連施設が13ある。 村の人口は約34000人だが、うち約11000人
 が原子力関連施設の従業員とその家族である。 東海村の村税収入の約3分の2は、原子力施設と
 その従業員が納める住民税、固定資産税、などで占める。

                                                             数字は、1999年

 

  

 今回の事故で、会社で働いていた人だけでなく、住民や救助にあたった
    放射線検査を受ける子供たち
救急隊員ら少なくとも69人が放射線を受けた(=被ばくした)。
 放射線漏れは十数時間でおさまったが、住民75000人以上が、被ばく
しているかどうかの検査を受けた。
 
 事故発生から83日目の12月21日、被ばくした作業員の一人が多
臓器不全で死亡した。  国内の原子力施設事故では、初めての被ばく
による死者であり、翌年4月には2人目の犠牲者が出た。
 死亡した作業員は、約18シーベルトの放射線を浴びていた。 これは、第五福竜丸事件で死亡した人の4シーベルト
を大きく上回る数字だった。 白血球やリンパ球の数が激減したことに対しては血を造る細胞を移植することで対
応した。 しかし、放射線障害は血液だけでなく、のどや胃腸からの出血が続き、熱で傷を受けた皮膚から大量
の体液が流出するなど、被ばく特有の症状が悪化していったという。 放射線を大量に浴びてしまった場合には
根本的な治療法がないということが改めて示された。

 

なぜ、事故が起きたのか? 

 1) 国の許可を得た手順 ( マニュアル ) を守らなかった。 ステンレス容器を使用して、沈殿槽に手作業で直
  接、ウラン溶液を投入するなど法律に違反するマニュアルを作っていたり、その違法マニュアルさえ守ってい
  なかった。 理由は 「 人手と費用を減らすため 」 と会社側は話している。
 2) 投入されたウランの量が、臨界を起こさないための定められた制限値の約7倍だった。
 3) 作業員に臨界などに関する教育が十分に行われていなかった。
 4) 安全対策が原子力発電所と比べると十分ではない。
       今回、事故を起こした再転換工場は、ウランを溶液や粉末の状態で扱う施設なので、核分裂を連
      鎖的に起こさない未臨界の状態が確保されることを前提にしているので、放射線が外に漏れるのを防
      ぐ何重もの設備がないなど臨界になった場合の配慮はされていなかった。  臨界にならないことが
      あたりまえの工場だからだ。
       一方、原子力発電所は、ウランを加工済燃料として扱う上、核分裂を利用して発電しているため、
      原子炉は常に臨界を前提とした設計になっており、厳しい加工基準と審査があるなどの安全対策がと
      られている。

   

  また、私たちは、放射能と放射線に対する正しい知識を持たなければいけない。  

  「 放射能 」 と 「 放射線 」 はどうちがう?      

 

 放射能がカレーなら、放射線はにおいにたとえられる。
 旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故では、大量の放射能( カレー ) が大気中や土の中に飛び散り、長い間、
放射線 ( におい ) を出して、住民の健康に害を与えた。 今回の事故では,放射線は周囲に広がったが、
放射能自体はごくわずかしか外に出ていない。  放射線 ( におい ) を短時間かいだだけでは健康に影響はな
い。 
 今回の事故では、どれくらいの量の放射線が出たのか?  事故から1ヵ月以上たった11月、科学技術庁は
その推定値をまとめた。 それによると、事故現場から80m離れた敷地境界での被ばくは、一般人の年間限度
量である1ミリシーベルトの100倍以上に達したという。 さらに、避難要請を出した半径350m以内でも、一般人の
年間限度量の数倍以上だという。 事故1ヵ月を経過して被ばくが確認されたのは69名だが、これを上回るもの
とみられている。

 

  

 ← 以前あった看板            
         「原子力の街」の文字がはずされた新しい看板 →
 
 今回の事故を受けて、東海村は村の幹線道路沿いに建てられてい
「 ようこそ 原子力の街 東海村へ 」 から 「 原子力の街 」
文字を、11月中旬までに抜き取った。
  同村では 「 看板を見ると気分が悪くなる 」 という苦情が寄せられ
ており、こうした村民感情に配慮しての処置だ。 原子力政策への理
解が深かった村の行動だけに、波紋が広がりそうだ。
 

                                              1999年11月18日付 毎日新聞掲載