大学入試のための 政治・経済
 日本銀行の金融政策
  TERUO MATSUBARA

 

 金融政策は、物価の安定を図り、景気変動を調整するために、日本銀行が  「 銀行の銀行 」 という働きを通し
て、通貨供給量( マネーストック/2008年に日銀がマネーサプライから名称変更 )をコントロールする政策をい
う。 そのため、日本銀行は 「 通貨の番人 」 と呼ばれている。

 

 不景気の時には、倒産する企業や失業者が増え、社会不安が広がる。  しかし、景気が良すぎても国民生
活は不安定になる。 景気が良すぎれば、みんながお金をどんどん使う。  しかし、土地や物には限りがある。
みんなが欲しがると、土地を例に考えると、どんどん値段が上がっていく。  土地が高くなりすぎると、普通の人
は土地が買えなくなり、家が建てられなくて困る。 このように景気が良すぎる時には、インフレが激しくなって経
済が混乱するので、景気を抑える必要がある。
 景気変動の波はできるだけ小さいほうが、社会の混乱が少なくてすむ。  したがって、現代の資本主義国 に
おいては、政府の積極的な景気対策が行われている。  景気政策はエアコンと同じだと考えればよい。
 景気が加熱すれば冷やし、冷え込んだら暖めるのだ。  これが、景気対策である。

 

    ☆ 景気対策を考える時のポイントは、出まわっているお金の量、通貨量の調整にある。

 ↓流れ図から、通貨量が増えると、好景気になることがわかる。( ⇒不景気の時は、通貨量を増やせばよい ) 

                  通貨量が増える・・・と、どうなる?
                               ↓
      銀行の通貨量が増えると、会社や家庭( 個人 )にお金をどんどん貸すようになる。
           ↓             ↓
 企業は、その資金をもとに生産
 活動を活発にする。
 
 家庭( 個人 )にお金が流れやすくなると、大きな買い物のチャン
 スと考えて、家を建てたり、車を買ったりするなど、人々は消費へ
 と向かう。 ⇒ 社会全体で需要が増える
           ↓                      ↓
                  好景気へと向かう

  

 ( 銀行などの金融機関をのぞいて ) 会社や個人などが持っているお金の合計を、マネーストック ( 通貨供
給量 )という。  
 不景気の時は、通貨量( マネーストック )を増やす方法を考えればいい。  逆に、景気の過熱(好景気)を抑
えるためには、どうすれば通貨量( マネーストック ) が減らせるかを考えればいい。

 

      通貨供給量( = マネーストック )は市中に流通している通貨量のこと。 日本銀行は、@現金と預金
     通貨( 普通預金などの要求払い預金 )の合計をM1、AM1に準通貨( 定期性預金 )を加えたものをM2
     また、現在はBM2にCD( 譲渡性預金 )を加えたM2+CDが代表的な指標として使われる。

 

 

  では、具体的にどういう方法で通貨量を増やしたり、減らしたりするのだろうか? 下表のような方法がある。

 好景気の時
 ( = インフレ、通貨量が多い状態 )
   通貨量・需要を減らす政策をとる
     ( = 金融引き締め政策 ) 
 不景気の時
  ( = デフレ、通貨量が少ない状態 )
    通貨量・需要を増やす政策をとる
      ( = 金融緩和政策 ) 
財政支出
 財政支出を減らす
 ( 公共事業をおさえる )
財政支出を増やす
 ( 公共事業を活発にする )
税金政策  増税を行う  減税を行う
公開市場操作  売りオペレーション  買いオペレーション
預金準備率  預金準備率を上げる    預金準備率を下げる
公定歩合  公定歩合を上げる  公定歩合を下げる

                    ( 注 ) 黄色バックが政府の財政政策で、緑バックが日本銀行の金融政策。
                      

@ 財政支出

    政府が、道路・港・公共施設を作ること(=公共事業 ) などにお金( 税金 )を使うこと。 民間の通貨量を
  増やし、公共事業を増やせば、建設業界をはじめ多くの会社の仕事を作り、会社をもうけさせることができ
  る。 財政支出を増やすことは雇用を増やし、失業者を救い、会社の利益をあげることにつながる。

A 税金政策   

    増税を行えば、民間から税金をさらに多く徴収することだから、民間の通貨量を減らすことができる。
    減税を行えば、国民の手元に残るお金は増え、余裕ができるので、今まで買えなかったモノが買えるよう
  になり、需要を増やす効果がある。 減税すると国の収入が減って苦しいが、やがて景気が回復すれば、会
  社の収入も増え、会社が納める法人税や、個人が納める所得税も増え、国の収入が増えることになる。

 

 以上が、政府が行う財政政策で、補整的財政政策( フィスカル=ポリシー )という。  
 また、補整的財政政策とは別に、現在の財政には本来、景気を安定化させる自動安定装置( ビルトインスタ
ビライザー )がある。 累進課税や社会保障によって、自動的に景気が調整されることをいう。

 

     自動安定装置( ビルトインスタビライザー )については、
      『 財政 』 のサイトに詳しい説明があります。 

 

 

 

  日本銀行の金融政策   

 ここからが、日本銀行の金融政策で、政府が行う財政政策と区別しよう。

@ 公開市場操作 ( オープン=マーケット=オペレーション )   

   日本銀行が金融市場で持っている国債などの有価証券を売買すること。 
   日本銀行が買いオペレーションを行えば(= 国債を市中銀行から買う )、買うということはお金を支払うことだから、銀行にお金が供給=通貨量を増やすことになる。 
  したがって、不景気の時に行う政策だ。 通貨が市中銀行で余り気味になると、企業などへの貸出が増え、金利も下がる。 金利が下がれば、ますますお金が借りやすく
  なり、通貨量は増えて、好景気に向かう。
     ※ 日銀がオファーを出し、その中からよい条件のものから買い取る。 金融機関が売りたくないと思ったら、日銀が買えない場合もある。 買った日銀は、日銀当座
      預金に国債の代金を入れる。
   逆に、売りオペレーションを行えば、国債と引き換えに通貨を市中銀行から吸収でき、通貨量が減る。

   

A 預金準備率 ( 支払準備率 )を操作する。

   日本銀行は、主要な金融機関から預金の一定割合を無利子で強制的に預かっている。 金融機関がつぶ
  れそうな時に、このお金を使って救済しようという意味である。 日本銀行に預ける割合を支払準備率という。  
   支払準備率を引き上げると、たくさん日本銀行に預けなくてはいけないので、民間の銀行の手持ちの資金
  量は減る。 そのため、企業への貸出しは抑えられ、企業の生産活動は控えめとなる。  支払準備率を引き
  下げると、民間の銀行の手持ちの資金量は増え、資金に余裕が出て、貸し出し量が増え、通貨量は増える。

 

B 公定歩合    ※ 2006年8月から「基準割引率および基準貸付利率」 と名称変更した。

    公定歩合とは、銀行が日本銀行からお金を借りる時の利子率をいう。 公定歩合が上がると、民間の
  銀行は企業などに貸し出す時の利子率を高くしないと損をするので、公定歩合と民間の銀行の利子率は連
  動するしくみになっていた。 すなわち、公定歩合が上がれば、銀行の利子率も上がる。 利子率が高いほど
  返す金額が多くなるから、借りる人は利子率の高低で借りるか、借りないかを決める。 その選択が、通貨量
  の増減に影響する。

  公定歩合を下げる → 市中銀行の金利も下がる とどうなるか?

  [ 企業 ]   [ 家計/個人 ]
   金利負担が軽くなり、資金が借りやすい。   金利負担が軽くなり、資金が借りやすい。
                   ↓    ↓
   借りた資金をもとに生産活動を活発にする。   大きな買い物のチャンスと考え、家を建てたり、車を買っ
                   ↓  たりする。  ( ローンの負担が軽いうちに買おうとする ) 
                   ↓   金利が下がっているので、貯蓄よりも消費へと向かう。
                   ↓    ↓
                景気がよくなる  ←  社会全体でみると、お金を使う人が多くなり、需要が増える。

   ※ 公定歩合を上げると、通貨量が減るので、好景気の時に行っていた政策だった。

 

  <注意> 公定歩合操作は、現在は行っていない!

               右グラフ  日本の公定歩合の変化  
 日本では、バブル期の1989年から1990年代初めに
かけ公定歩合が高かった。 その後、景気がよくないた
め、何度も公定歩合の引き下げが行われた。
   2001年2月、日銀は異例ともいえる1ヶ月に
    2度公定歩合を下げ、2月28日には 0.25%
    した。
 現在、金融の自由化とともに、市中銀行が公定歩合
に関係なく自由に金利の設定ができるようになったの
で、この操作は政策としての意味がなくなり、1996年
からは行っていない。

     

     日本銀行については、『 日本の中央銀行  日本銀行 』 のサイトに 
  詳しい説明があります。

  

 

【日本銀行はどうやってお金を発行するのか?】

 

 2つのケースがある。
 @ 市中銀行は日本銀行から借金をする。 この時、市中銀行は、借金の担保として持っている国債や社債、手形
  などを日本銀行に渡す。 それを担保に日本銀行はお金を貸す。  お金は市中銀行が日本銀行の中に持ってい
  る口座=日銀当座預金に日本銀行から支払われ、市中銀行はここからお金を引き出して使う。 
   日銀当座預金から銀行がお金を引き出した時点で初めて、お札を発行したことになる。
 A 日本銀行が世の中の通貨量を増やそうと考える時、市中銀行が持っている国債を買い上げる。 この時も銀行
  の「日銀当座預金」に支払う形で日本銀行はお金を渡すが、これもお札を発行されたことになる。 

 

 このように、突然、何もないのにお金を印刷して配るわけではない。 日本銀行がお金を貸したり、国債などを買っ
た時に日本銀行からお金が出るが、これが 「日本銀行がお金を発行する」 ということで、世の中にお金が出回って
いく。 
 日本銀行券の印刷は、国立印刷局が請け負っている。 硬貨は、大阪にある造幣局が発行している。 市場に出
回る現金のうち、お札の額が9割以上占める。

 

   ★ 世の中に出回っているお札と硬貨の量=現金通貨。 
   ★ 現金通貨+日銀当座預金=マネタリーベース
      ※ マネタリーベースは世の中のお金の総量とはちがう。世の中に出回るお金の元手になる部分。  日銀が直接動かせる量でもある。 日銀当座預金は155兆円
       ( 2014年 )あり、過去最高。アベノミクスで量的緩和が進んだが、日銀当座預金が多いということは、うまく市中にお金が回っていないということである。

 

 不景気で通貨量を増やすなら、日本銀行がお金をどんどん作ればいいのでは?

    商品の量が全く変わっていないのに、お金の量だけ仮に10倍に増やしたら、お金の価値が下がるだけで
   ある。 お金の価値が下がったら、その分、商品の値段は上がる。
    200万円の車があったとする。 不景気の時は売れない。 お金を発行し、通貨量を10倍にしたらどうな
   るか? みんなが今までの何倍ものお金を持つことになり、今までよりたくさんお金を使うようになる。 
   200万円の車が高いと思った人も 「 買おう 」 と思う。  しかし、欲しい人がたくさん出てきて、車の値段が
   どんどん上がり、200万円の車は2000万円になってしまった。 なんてこともありうる。
     だから、お金をどんどん作っても、お金が増える分、お金の価値は下がり、物価上昇=インフレという
   現象を引き起こしてしまうのだ。

 


ゼロ金利政策   ※ 日本銀行は、公定歩合に代わって、コールレートを政策金利としてコントロールしている。

 銀行は毎日お金を融通し合っている。 大口の預金引き出し者が出た場合、資金が足りないことがあるので、
そういう時は他の銀行からお金を借りることがある。 この銀行同士のお金の貸し借りを 「 コール市場 」 とい
う。 「貸してくれ」と呼びかける( Call )ことから、この名前がついた。 
 コール市場での貸し借りは無担保で、 「 一晩だけ貸して。明日になったら返すから」 と返済期間も1日という場
合が多く、それを「オーバーナイト物」 という。 コール市場での金利をコールレートといい、 この金利をほとんど
ゼロにすることを、ゼロ金利政策という。
    ※ 日本では、1999年にゼロ金利政策をとったが、2000年に一時解除したが、2001年に量的緩和政
     策をとったので、ゼロ金利は復活した。 2006年7月、金利を0.25%とするまで続く。 
 この金利は、他のいろいろな金利が決まる目安になる。 これを下げると、会社に貸す時の金利や住宅ローン
の金利、銀行の預金金利も低くなる。 「 借金して工場を建てよう 」 「 家を買おう 」 という動きが広がり、景気の
回復につながる。

 
 この金利を下げる方法は? 
 銀行は国債を大量に所有しているので、日本銀行は市中銀行の持っている国債を買い上げる。 そうすれば、
お金が市中銀行に流れ込みお金が増えるので、貸し出すお金の量も増えて金利が下がる。 逆に金利を上げた
い時は、日本銀行が持っている国債を市中銀行に売ればよい。 銀行間の金利が下がれば、個人や企業への
貸し出し金利も下がる。

 
 日本銀行は、金融政策決定会合でコールレートを何%に誘導するかを決定する。 コールレートが日本銀行
の誘導目標より高い時は買いオペレーションによって資金を供給し、金利を下げる。 このように、現在では、
コールレートを目標に誘導することが、金融政策において重要になっており、その手段としての公開市場操作が
大きな役割を果たしている。 

 

  1995年までは、公定歩合を操作して金利を決めていたが…、
      ↓
  現在は、日銀が市中銀行が持っている国債を買い上げ、通貨量を増やす。 企業などは金利が低い銀行
 から借りたいと思う。 そこで、通貨量が増えた銀行は金利を下げて多くのお金を貸し出そうとする。 競争
 原理で、全体の金利が下がる。  
  このように、日本銀行はお金の量を増やすことで金利を下げるような対策を行っている。
  こうして決まる金利を、政策金利という。

 

 

量的緩和政策 

 2001年3月から、ゼロ金利政策をとっても十分な効果が出ないため、金融政策の目標を 「 金利 」 から 「 資
金の量 」に切り換え、量的緩和政策を実施した。 
 緩和とはゆるめること ――― 日銀の財布のヒモをゆるめて、世の中に出回るお金の量そのものを増やそうと
いうことだ。 日銀は公開市場操作を行うことによって、銀行にたくさんのお金を持たせて会社に貸すように仕向
けるのが量的緩和の目的だ。 
 具体的にどうするのかというと、まず銀行が持っている「手形」や「国債」というお金に代えられるものと引き換え
に、日銀が銀行にたくさんのお金を渡す。 銀行にお金がどんどんたまると、銀行は 企業や個人にお金をどんど
ん貸すようになって、世の中にお金が行き渡り、会社はこのお金で新しい仕事を始めるなどして、景気が良くなる
のではないかと日銀は考えたのだ。 日銀がこんなやり方を行ったのは初めてで、世界でも例がない。
   2006年3月 … 量的緩和政策は解除される。 ( 消費者物価が4ヵ月連続してプラスになったため ) 

 
   2013年4月…日本銀行は、長期国債の保有量を2年間で2倍にすると発表する。
  ( 狙い ) 日銀が国債を大量に買えば、国債の価格は上昇し金利は低下する。 金利が下がれば、お金を借り
       る企業や個人が増えて景気がよくなる。
 日銀資産は、173兆円( 2013年 ) ⇒ 290兆円( 2014年末 ) となる予定だ。GDPの約6割相当に増えること
になる。
 ただし、利回りの低い円は売られて、円安ドル高要因にもなる。 日銀の金融緩和は円安の一因になっている。

 

 

 


 市中銀行が、預金と資本金以上に貸し出し・有価証券投資を行い、その結果生じる資金不足を恒常的に日本
銀行からの借り入れに依存している状態を、オーバーローン( 貸し出し超過 )という。