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vol.21

共立のあの先生が解説!

キャリコ通信

私たちの暮らしに深く関わる「地域包括ケア」について知ろう!

2019.02.22

世界でも未曾有の少子高齢社会を迎えつつある日本。2025年には、国民の30%が65歳以上になるといわれています。高齢者の暮らし方や医療費の増加など多くの課題が提示されるなか、「地域包括ケアシステム」とよばれる仕組みが注目を集めています。
 
今後、私たちの暮らしに大きく関わってくるという「地域包括ケアシステム」とは、いったいどのようなものなのか。看護学部で地域看護学を教える田口理恵教授に、これからの日本社会の目指すべき姿と地域包括ケアの全貌について伺いました。
 
「地域包括ケアとは、病気や障害を持つ人も病院にかかりきりになるのではなく、住み慣れた地域や場所で暮らしながら、必要に応じて通院や適切なサービスを利用し、自分らしい生活ができる社会を目指すもの。概念自体は以前からありますが、日本が超高齢社会へ突入することを見越して2005年に行われた介護保険法改正をきっかけに、注目されるようになりました」
 
その背景には、多くの税金が投入されている医療費が、今後高齢者の増加によってふくらむ一方、税金を支払う若者の大幅な減少が見込まれるため、社会保障制度の見直しを迫られていたことがあるといいます。従来の仕組みでは日本の医療システムが立ちゆかなくなってしまう危険があったのです。
 
高齢化社会の救世主として期待されている地域包括ケアシステム。実現すれば医療費を減らせるだけでなく、国民の暮らしもよりよい方向へシフトしていくことができるわけですが、具体的にはどう変化していくのでしょうか。
 
「診療報酬制度の改定では、入院中の医療費の算定方法にDPC/PDPS(診断群分類別包括評価)制度というシステムを導入しました。疾病ごと、入院期間ごとに診療報酬点数(※)が決まるシステムで、病院側が患者を長期に入院させたり過剰に検査を行ったりすると赤字になるような仕組みになっています。この制度が導入されてからは、病院側も大幅に入院日数を減らすようになりました」
 
※ 医療保険制度のもと医療機関に支払われる医療費の算定方法
 
しかし、単純に退院を促すだけでは国民に不利益が生じかねないため、退院後のより良い療養生活を実現すべくサポートを手厚くする仕組みも作られたのだとか。退院後、自宅で治療やお手伝いが必要となる患者さんには、退院支援職員が退院後に必要となるサービスを、入院早期から計画的に整えてくれるというシステムです。このような退院支援体制を病院が整えることで診療報酬も加算されるようになっているそう。
 
「じつは国民のほうも、人生最期の時間を住み慣れた場所で迎えたいという意識が高まってきているようです。以前は、高度な医療を受けることがいいという考えが国民のなかにありましたが、必ずしも高度な医療で延命処置を受けても幸せな最期を迎えられるわけではないことに気付きはじめたんですね」
 
一方で、昔のように家族には迷惑をかけたくないと考える高齢者も非常に多い、と田口教授。
 
「今まで日本では、家族が高齢者の面倒をみるという感覚が強くありましたが、今後は地域包括ケアシステムでうたわれているような多様なサービスや仕組みを利用して、自立した暮らしができるような社会が望まれています。実際にオランダなどヨーロッパではそうした仕組みづくりが進んでいる国もすでにあります」

▲日本が目指す地域包括ケアシステムのイメージ図(引用元:厚生労働省WEBサイト https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/)


そして、地域包括ケアの網羅する部分は、医療だけではありません。保健(疾病予防)や福祉(生活を支える)も含んだ、生きて行く上で不足している部分を支えていくケアとしても機能していくといいます。
 
「高齢者の暮らしをよりよくするために、介護予防のための施策も重要です。寝たきりになるおもな理由は、脳卒中や認知症、ロコモティブシンドロームの3つ。これらを防ぐため、認知機能や足腰、口腔機能の衰えを防ぐための教室を地域で展開しています」
 
行政では、地域の保健師や看護師の直接指導に加え、高齢者自身が集まってハイキング仲間を作ったり、俳句の会や麻雀の会などを定期的に開催したりして引きこもりを予防するサポートも実施。高齢になっても人生の楽しみ、生きがいを持ってもらうことを目指していくのだとか。
 
「予防という意味では、元気な老後を迎えるために、若いうちからの対策がなにより大切になります。日々の食事や運動をコントロールして、しっかりとした体づくりを心がけてほしい、とすべての国民に促していくことも重要になっているのです」
 
こうしたなかで、国民の疾病予防や健康維持を支援していく保健師という職業は非常に重要な役割を果たしていくことになる、と田口教授。共立女子大学の看護学部では、2019年4月から新たに保健師課程を開設。新たな医療体制のなかで活躍、貢献していける人材を育成していくといいます。
 
また、地域の人が高齢者を支えていく仕組みも今後確立していくことになるそう。電球を変えてあげたり、ゴミ出しをしてあげるなど、生活のちょっとしたお手伝いから、寝たきりの高齢者をサポートすることまで、国のシステムでは賄いきれない細かなニーズに地域のボランティアが応えていくことが必要。それには、地域の若者から元気な高齢者まで、幅広い国民が地域に貢献していく必要があります。
 
「そうしたサポートがひいては、自分や自分の家族にとって将来住みやすい地域を作っていくことにつながっていきます。皆さんも今後日本が目指すべき社会像をしっかりと理解して、地域に少しでも参加する意識を持つことをおすすめします」

取材にご協力いただいた先生はこの方!

共立女子大学 看護学部 

田口理恵 教授

地域看護学、在宅看護学分野の科目を担当。地域包括ケアシステムの中で求められる看護職の教育プログラムを開発、展開している。研究テーマは、生活習慣病予防、子育て支援、虐待予防、訪問看護など多岐にわたり、主に認知的側面からアプローチを行っている。

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